逃亡不可
「やってくれへん?」
「………」
またか、とは思う。しかし慣れてしまっている自分もいて、小さく溜め息。
彼は自らのことを私にやらせたがる。今なら服のボタンとか、毒手の包帯(中は知ってるけど)とか、部活の時は汗を拭いてとか。恋人でもない男に言われたらその場で右ストレートだが、これが惚れた弱みというやつか、素直に聞いてしまう私が居る。
すっかり慣れてしまったことに疑問を感じながら、服のボタンを一個一個しめていく。
「あのさぁ?」
「んー、何?」
最後のボタンを穴にかけると、彼は私に抱き付いてくる。これも、いつものこと。
「自分でやりなよ」
「嫌や。名前にやって欲しいねんもん」
「面倒なんだけど…」
「けど、やってくれるんやろ?」
「………」
あぁ、確信犯。
「しゃあないやん、全部名前やないと嫌になってもうた」
「面倒な人生だね」
「せやなぁ、だからこうして責任取ってもらってんねんけど」
軽いリップ音を立てて、額にキス。蔵のスキンシップ過多は付き合い初めからだが、こればっかりはいつまでも慣れない。
ほのかに赤いであろう頬を隠すように、その胸により密着すれば、腕の力はきつくなる。
「もっともっと俺だけに構ってや?」
捕らわれて、逃げる気もない。
……………
何がしたいのかよく分からない話になってしまった…。