黙プレゼント


「ピリーン」


ぎゅう。いきなり背中が重くなった原因は1人しか居ない。


「まーくん、重い」


「愛の重さナリ」


「誰かーお客様の中にお医者様は居りませんかー?」


「此処は学校ぜよ。…相変わらず釣れんのぅ」


「はいはい。離して?」


「寒いからやーじゃ」


「…子供か」


可愛くはないのだが、いつもよりベッタリである。まぁ、確かに教室の暖房は付けたばかりだから、まだ少し寒い。


「今日は何の日か知っとるか?」


「E.T.の日だっけ」


「お前さん、わざわざ調べなさったんか」


腕の力が強まって、顔に触れる雅治の髪が頬にくすぐったい。


「誕生日おめでとう」


「プレゼントはキスで良いぜよ」


「天ぷらで良い?旬は春の終わりから夏にかけてって言うけど…」


「………名前が意地悪じゃ」


ぷーっと膨らんだ頬に指を立ててから、苦笑しながら雅治の頭に手を伸ばす。


「いやぁ、誕生日だからって何でも許されるわけじゃないからね?プレゼントならケーキ作ったけど」


ちなみにケーキを用意したのは、精市からの命令だったりする。『仁王は拗ねたら面倒だからちゃんと用意しておいてね。あ、あと俺の誕生日は3月5日だから宜しく』…とのメールが来たのは一昨日。後半はスルーしたくなったが、精市は拗ねたら確実に面倒そうだから困る。


「むぅ」


「え、不満?結構頑張ったんだけ」


しゅるり。突然の出来事に思考がついて行かない。え、ちょっと待て何があった…と思ったら胸元が緩んで。


「これ、欲しい」


奪われたのは、私のネクタイ。特に深い思い入れはないが1つしかないから、服装検査に支障が出る。なにより、


「…真田に怒られんの面倒なんだけど」


出会うたびに服装検査なのだから、ネクタイが無いとか確実にアウト。いや、スカートはもう少し長くしろとか言われるのを動きやすさ重視とか適当な嘘で誤魔化しているが。

とか思ってたら、しゅるりと雅治も自らのそれをほどく。………このシーンを直視したクラスの女子が数名倒れたらしいとは後の情報だ。


「やる」


「恋人か」


「………だめ?」


「………」


雅治はどちらかと言えば、格好良い系または先ほどのネクタイをほどくシーン的にセクシー系な男子かと客観的に思っていたのだが。

小首傾げが、かなり可愛い。


「さんきゅ」


雅治のネクタイを手早く自分の首に結ぶと、彼は私のそれを手に握らせて言った。


「結んで」


「……………今日だけだからね」


誕生日という名目が無ければ、絶対にしてやらない。

毎日している行為でも、人にしてやるのはやりにくいと考えながらワザと普段よりきつめに結んでやる。ちょっとしたおふざけのつもりだったのだが、何も言われなかった。が。



「…新婚さんみたいじゃのぅ」



思い切り、ネクタイで首を絞めてやった。















「これ、名前が作ったんか?」


「ブン太もだよ」


「天才的だろぃ?」


部室のテーブルに置かれたケーキは、店に並ぶものに全く引けを取らない自信作。


「早く食べましょうよ!」


「駄目ですよ切原君、全員が揃ってからでないと…」


「へぇ、俺が居ないのに食べる気だったのかい?」


「いえ、まさか!」


「…そもそも俺のケーキなんじゃがのぅ」


相変わらずな空気の中、少しだけ嬉しそうな雅治にこちらまで頬が緩む。やはり誕生日とは良いものだ。


「そういえば、仁王君。今日は随分真面目なんですね」


不意に、柳生がそう口にした。流石は風紀委員。服装には目ざとい。


「あ、ホントだ!先輩のタイがキッチリしてる。…息苦しくないッスか?」


「まぁ…うざったいにはうざったいんじゃが、」



そうは言いながらも、緩める気配は無くて。


「今日ぐらいは、のぅ?」


ちらりと渡された視線に、無意味にドキッとする。何となく気恥ずさを感じて目を逸らすと、彼は上機嫌で寄ってきた。


「また頼むぜよ、新婚さんごっこ」


「………仕事と私どっちが大事なのよって?」


「それは昼ドラごっこじゃろ。ちなみに名前のが大事じゃ」


「ありがとうー、ケーキ切り分けるからどいて?」


「照れ屋じゃのー」


赤面こそしなかったものの、少しだけ鼓動が速くなったとか…絶対に教えはしないけど。










ハッピーバースデー、仁王雅治。














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