終・季節外れな気はするが
「白石ーっ!」
ウォータースライダーからのプールにダイブ。盛大に上がる水しぶきが収まれば、泳いでプールサイドへ。
ふぅと一息つけば、可愛い悪魔は俺の手を引く。
「もう1回!」
はい、2桁目に突入。
近くの椅子に座っている千歳が、同情的な眼差しを此方に向ける。
俺、今なら千歳とダブルスの奇跡起こせる気がするわ。体力あんま残ってへんけど。
「疲れた〜っ!」
「そりゃあんだけハシャげば疲れるやろ」
流石に疲れたらしい名前は、謙也とプールサイドにあるベンチに座っていた。
「金ちゃん良いなぁ、体力無限?」
「まだスライダー乗る気やったん?」
「いや、光達と水鉄砲やってる」
「あー、アレか」
大プールにて水鉄砲装備で遊んでいる。今日はそんなに混んでいないから、他の客の迷惑にもなっていないようだ。
「ほい、名前」
そこにやって来た白石は、紙コップに入った飲み物を彼女に渡す。
「わー、有難う!」
「………俺のは?」
「なんで謙也のまで奢らなあかんねん」
「でも白石、これ何?微妙なスポドリみたいな味がする…」
「ヤシの実ジュースやと。俺は一口で放棄した」
不味いというわけではないが、人にはあまり勧めない味だ。確かに気になって飲みはするが、期待を裏切る味。
「白石を見直した私馬鹿。謙也飲む?」
「微妙言うたもん回すか?まぁ一口…「謙也はあかん」
ぱしっと、渡しかけた手を掴まれた。
「間接になってまうやろ」
「………待て待て。さっきの台詞から察するにお前は名前と間接なんとちゃう?」
「せやな」
「いや、私は今更気にしないけど」
「「少しは気にせぇや」」
「…はい」
叱られたので大人しくしていれば、白石と謙也の果てしなく下らない争い。
「そもそも俺が買ったんやからどうしようと俺の自由や」
「名前にあげたんやから名前の好きにさせたればええやろ。束縛っぽい男は嫌われるで?」
「俺なら束縛せんでも俺以外には目も向けられんよう惚れさせる自信あるわ」
「ナルシストやなぁ。そうは言うても無理矢理何やろ?」
「誰が無理矢理や。確かにシチュエーション的にはええけどな?俺はそないなこと…、」
「………何の話やねん」
「あ、ユウジ」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ出した2人に冷めた視線を送りながら、ユウジは近くへと座る。
「何飲んでるん?」
「ヤシの実ジュース…らしいけど、スポドリな味がする。フルーティーじゃない」
「なら要らん」
「いやあげないし。それよりお昼さ…」
「「名前!」」
ほのぼのとユウジとお昼の話をしようかと思っていたのを、先ほどから熱戦が続いてたらしいアホ2人に遮られた。
「なん…でしょうか?」
真剣な眼差しに、ドキリとした。ときめき的な意味ではなく。
「白石と俺ならどっちがええ?!」
「勿論俺やろ?こんなにも愛しとるんやから!」
「自分が買ってハズレた飲み物押し付けんののどこに愛があるんや」
「ユウジ、ちょっと黙っとき」
じーっと見つめる真剣な眼差しの前で、ふわり、と彼女は笑った。
「みんなと一緒、が良いな」
その、先の醜い争いを浄化させる笑顔に、釣られて彼らも笑う。
「…、せやな」
「やっぱり名前には適わんなぁ」
「ったく、恥ずかしいヤツ」
それぞれの反応ながらも、柔らかい時間が流れた。
「だからさ、」
…と、思ったら。
「みんなでやろうよ、ウォーターウォーズ」
いつの間にか用意していたソレは、水鉄砲にしては随分ゴツくて。
「「「………」」」
まだまだ鍛え方が足りないなと、彼らが後悔するのは翌日のことで。
金太郎はともかく、何故か元気なままの名前に笑われるのも翌日の話。