大好きなのに理由は要らない
「でな、めっちゃ可愛いんだって!あ、侑士は声かけんなよ。つか名前の半径5km圏内に入んな」
「がっくん、それかなり理不尽な注文やない?俺同じ学校に通ってるんやけど」
「なんか、彼女が侑士と同じ学校に通ってるって…嫌だな」
「そろそろ侑くん泣くで?ポーカーフェイスファイターなんはコートの中だけやで?」
「あ、名前からメール来た!じゃあな!」
「…ぐすっ」
「何泣いてんだよ忍足、激ダサだぜ」
「放っときましょう宍戸さん。どうせまた向日さんのアレですよ」
「…あぁ。仕方ねぇだろ、お前はいい加減に岳人から卒業しろ」
「そうは言うけどな!鳳だっていつか恋人>親友になるんやで!」
「別にフツーのことだろ」
「…と言うか、忍足さんと向日さんは親友だったんですか?」
「え?そこからなん…?」
「それに仮にも親友なら素直に喜んでやれよな。名前だって悪いヤツじゃねぇし」
「お似合いですよね」
「……………やっぱり、俺はがっくんの幸せを望んで名前ちゃんの半径5km圏内に入らん方がええんやろか」
「え?半径5kmまでなら良いんですか?…向日さんは寛大ですね」
「俺なら忍足を大阪に帰すな」
「もうお前ら嫌いや!俺大阪帰りたい!」
「止めないからな」
「俺もです」
「………あ、もしもし謙也?俺もう東京でやっていかれへん」
「ごめん、待った?」
わざわざ駆けてくれたであろう名前の腕を、当たり前のように取る。
「いや大丈夫だ。お疲れ」
「岳人もお疲れさま」
彼女は吹奏楽部に所属するが、他の部と比べてみても終わるのが遅い。最近は大会も近いから余計にそうだ。
が、彼女を待つ時間はまったく苦痛ではない。
「いつもゴメンね?岳人も疲れてるだろうに…」
本当に申し訳なさそうなのが、可愛い。彼女の仕草1つ1つが俺の癒やしであり、原動力。
「気にすんなよ。俺も待たせちまう時あるし…、何より一緒に帰りたいしな」
「うん」
にこっ。花が綻ぶような笑顔という表現があるが、俺は断言しよう。それは名前のために作られた形容だと。
するりと手と手が触れ合って、名前の小さな掌に自分のそれを絡める。勿論恋人繋ぎ。付き合い始めた頃は手を繋ぐのさえ照れる名前の可愛さを侑士に2時間半は語ったものだ。
「なぁ、名前」
「ん?」
きょとんとした目。くるくる変わる彼女の表情は飽きることなく、むしろもっと見たくなる。
「わっ!」
ぎゅっと抱き締めれば、耳まで真っ赤で。腕の中で慌てているのが可愛い。
「…岳人…?」
小さく収まっているけれど、高い体温は確かな存在感。つまり幸福。
「どうしたの…?」
「いや、」
戸惑いながらもそう尋ねてきた名前の額に、自らの口唇を当てる。
「お前のこと、大好きだなって」
毎日言っても飽きない。何度も伝えた言葉なのに。
「わ、私も…」
また赤面。
あぁ、もう本当に可愛い…っ!!