節外れな気はするが


すっかり寒くなってきた、11月の終わりの話。


「なぁ、名前?」


「ん?」


それはもう良い笑顔で、同じクラス隣の席の白石が言った。


「泳ぎに行かへん?」


「頭…、ぶつけた?」


本気で心配になって頭を撫でれば、笑顔のまま頬をつねられた。痛い。















「オサムちゃんが当てたらしいんよ。プールの無料招待券」


「へぇ」


昼休み。いつものように小春ちゃんとお昼を食べていたら、そう教えてくれた。

最近噂のリゾート施設で、室内プールやらウォータースライダー、温泉やらなんやらと中々面白い場所らしい。


「で、“せっかくやしマネージャーも誘って行ってき”って蔵リンにその券渡してはったわ」


「なるほど、私はこの寒いのに寒中水泳でもやるのかと思ったよ」


「はっ!んなわけあらへんやろ!」


ストローに口を付けて紙パックのお茶を飲んでいたら、よく知る人物が現れた。


「つーか何俺の小春と飯食っとんねん!小春とイチャイチャしながら飯食えんのは俺だけの特権やアホ!」


「その権利をユウくんに独占させるぐらいなら無償で名前ちゃんに引き渡すわアホ」


「ごめんねユウジ、私の方が小春ちゃんと仲良しで?」


机の上で軽く小春ちゃんとハイタッチしながらそう言った。


「誰が仲良しやねん!俺の方が万倍仲良しや!」


「男の嫉妬は見苦しいよ〜」


「うっさいわ!お前プールで溺れさすぞ!」


「ンなことしたら分かってるんやろなぁ…一氏?」


「「………」」


低音小春ちゃんは毒手白石並みに怖いと思う。


「あ、ていうか私委員会あるんだ」


ちらと時計を見れば集合時間まであと5分。いそいそと食べ終えた弁当箱をしまう。


「じゃ小春ちゃん、またあとで!」


「お務めご苦労様〜」


「はよ行ってまえ!」


「ユウくんも逝ってまえばええのに…」


「え?小春?今なんや怖いこと…」


そんなやり取りを背中で聞きながら、私は教室を後にした。















「名前先輩も来るんですか?」


「来て欲しくないなら行かないけど、」


「誰もンなこと言うてないやろ。…せやったら俺も行きますわ」


「そもそも行かない気だったのに吃驚だ」


図書委員の打ち合わせ…、と言っても簡単なもので冬休みの長期貸し出しのお知らせについてのプリントをクラスに回すだけだ。
昼休みはまだあるので、同じ委員会の財前と教室に戻りがてらプールについて話していた。


「名前先輩、海とかあんま好きやない言うとったやないですか」


「日焼けとか痛いじゃん。日焼け止めは塗った感じが嫌い」


「今は塗った後もサラサラするヤツありますやん」


「なんか効果薄そうな気がしない?」


「あー、気持ちは分かりますわ」


季節外れ感はあるが、そんな話をする。


「まぁ室内プールなら焼けないし」


「…スク水は止めて下さいね」


「流石にそれは無い。この夏に小春ちゃんと不本意ながらユウジと買いに言った水着あるし」


「なんで女子と行かへんのや」


「みんな部活で忙しかったんだよ」


そこまで話して、財前の教室に辿り着いた。私はこの向こうなので、ここでお別れだ。


「ま、あの2人が選んだんなら多少は期待出来るッスわ。んじゃ、楽しみにしときます」


「だから最初から楽しみにしてなってば」


苦笑しながら、私は教室へと向かった。









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