お呼び出し
「どういうつもりなの?!」
放課後。屋上。見知らぬ数人の女子グループ。
全く困ったモノである。
「名前さんを独占するなんて!」
そう来たか。
−−−−−話は今朝に遡る。
「そーいや、名前は大丈夫なのか?」
「何がじゃ?」
「イジメ、とか」
「あー」
彼らはモテる。それはもう流行のアイドルが文字通り顔負けで。
故に女子同士の陰湿なやり取りなんかは多少なりともあるのだが。
「流石に名前には手出しせんじゃろ」
彼女の剣道の腕が相当なのはそれなりに有名だ。
もし分からないような嫌がらせをしても、見つかった時のリスクが高過ぎる。
なんて思いながら靴箱を開けたら…、
「「………」」
仁王とブン太は同時に停止した。
「仁王…?」
「ブンちゃんもか…?」
靴箱の中の、黒いラブレター。
いやラブかどうかは分からないが。
ファンの子からラブレターやらお菓子やらを貰うことは多いが、まさかの黒いラブレター。
「お早う雅治、ブン太。どしたの固まって?」
そんなタイミングで現れた名前に、過剰反応してしまった。
「いや…何でもないナリ」
「あ、俺達今日部活遅れるって幸村君に伝えてくれ」
「うん…?」
「一緒にみんなでお昼を食べるのが私達の至福の時間だったのに!
確かに仁王君達は恰好良いし好きだけど、名前さんは別格なの!」
「今、サラッと告白されたのう」
「ていうかどんだけ名前は女子に人気なんだよ」
彼女達の話からすると、男子テニス部はもはや別次元で…テレビに映るアイドル的存在。
それに比べて名前は手の届く範囲の、例えるなら気の良い憧れの先輩のような存在らしい。
「だから男テニで独占しないで!」
「こればっかりは俺らに言われても…」
「部長に言ってきんしゃい」
まぁ言うだけ無駄だろうが。
「あ。みーっけた」
どうしたものかと考えていた時、噂の人物が現れた。
「精市が呼んでこいっていうから探した探した。…ていうか、お取り込み中?」
「原因はお前だけどな…」
「え?私なんかした…?」
空気が読めないというか何と言うか。
いや彼女に罪はないのだけれど。
「実はかくかくしかじかで」
「ブン太、それじゃ通じない」
「お前さんのファンに俺らがお前さんを独占するなと叱られとったんじゃよ」
「なるほど」
納得したように頷けば、先ほどの女子達はまさかの本人登場に慌て始めた。
「だ、だって…一緒にお昼、とか」
言い訳がましい言い方に、名前は溜め息をついた。
「気持ちは嬉しいんだけど、だからって他の人に迷惑かけるのって良くないよね?
それに束縛されるって苦手なんだ」
「………」
どんどんしょんぼりしていく彼女達に雅治とブン太が同情しかけた時、でもと名前は笑った。
「偶には一緒に食べれるようにするからさ、待ってて?
それに健気に待っててくれるような子って好きだな」
「!!」
爽やかな笑顔と優しい声音に彼女達は若干頬を赤らめている。
「わかった?」
「はい!」
確認のように尋ねれば素直に頷き、待ってるからと言い残しパタパタと去っていってしまった。
「………なぁ、名前って性別なに?」
「生物学上は女。一応言っとくけど私ノンケだよ」
「いやそこは疑ってなか」
あぁでも、と彼女は付け足した。
「前世占いは“モテモテのイタリア人”だった」