愚者は2人
ばさり。誰も居ない保健室でジャージに着替えて、濡れた髪を無断借用中のタオルで拭く。
緑茶だからまだマシだろうが、制服は洗わないと駄目だろうか。緑茶の匂いが残っている。
どさり。保健室のベッドに背中からダイブ。さて冷静に考えてあの子は蔵に振られたのだろうか。アンタのせいで…って私は何も悪いことしてないし。ていうか本気かと思ってたのだが、浮気程度の気持ちだったのだろうか…と考えてあぁもう別れたのかと瞳を閉じる。
がらり。いきなり保健室の扉が開いて、体を起き上がらせるといきなり抱き締められて、頭に乗せていたタオルが床に落ちた。
ひらり。その様子を眺めながら、状況整理。見慣れた柔らかい髪色は蔵のもので、こんな風に私を抱き締めてくる男も彼しか心あたりが無くて。
「なんでジャージなん?」
「君のせいで緑茶殺菌された」
「………」
ちらり。彼は脱ぎ捨てられた制服に視線を向ける。…が直ぐに私の首に顔をうずめた。何がしたいかよく分からない。
「なぁ、」
「うん」
「別れんで?」
「なんで?」
縋るみたいな視線が私を見つめる。
「好きやから」
「………」
今更だが、私には特技がある。
「いっだ!」
ビシッ!と蔵の額にデコピン。私のそれは痛いことに定評がある。ほら、もう彼の額は赤くなっている。本当なら殴りたいのだが、残念。私はこの顔が好きだ。
「気付くのが遅い」
「………せやな」
「ねぇ、なんであの子とデートしてたの?」
「……………出来心。」
−−−パンッ!
私の平手が端正な彼の顔を打った。
「ふざけてる?」
頬をおさえながら、彼は言った。
「や、名前が妬いてくれるかと」
「実際やってみての感想は?」
「死ぬほど後悔しとる…から、」
ぎゅう…からのばたん。ベッドに2人でダイブ。
「離れんで。頼むから」
「なら離さないように縋ってれば?」
私は誰かに執着しない。縋らない。ただ、君が離さないと言うならば、抵抗もしない。
何より、
「私は、蔵以外の人間にあんまり興味が無い」
「なら、もっと俺に夢中になり」
唇が重なりながら、また彼のアドレスを登録しなくては…なんて考えた。
(消さなきゃ良かったかも)
まったく2度手間じゃないか。
「蔵、」
「ん…?」
「2度目は許さない」
「絶対にないから安心しとき」
その言葉に、微笑を零した。
「なら良いや」
今、私が幸せであるから制服のクリーニング代は請求しないでおこうか。私、寛大。