愚者が求む
結局、一番好きなのは彼女だけなのだ。
どんなに可愛い子だって、彼女にだけはかなわない。
けれど、彼女は俺に執着しない。…俺は、他の男と話すのを見るだけで相手を殴りつけたくなるぐらいなのに。
だからちょっとした遊び心のつもりだった。あの子は俺に、縋ったから。彼氏が居るのにも関わらず、俺を必要としたから。
なのに。
「ねぇ、白石クン」
真っ直ぐに俺を見た瞳が、一瞬だけ大きく揺らいだ。
「別れようか。今までありがとう」
綺麗な笑顔だった。見とれるぐらいに、綺麗で残酷な笑顔。
×××
「なんで…?」
嗚呼、泣きそうな顔。俺はこの顔が好きじゃない。
「私は別れたのに!白石君と付き合いたくて!」
縋られるのは嫌いじゃない。こいつには俺が必要なんだと思えるから。
けど、
「悪いな。俺に要るんは1人だけやねん」
くるり。俺は振り返らない。さて、彼女は俺と話をしてくれるだろうか。
×××
「アンタのせいで!」
ばしゃっ!
まったく性別が男だったら容赦はないと言うのに。こんなに可愛い女の子、殴れるわけがない。
まぁ、かけたのが糖類の入っていない緑茶だったから許してやろう。糖類の入ってる飲料だったら今頃体中ベタベタだ。
「風邪予防?わざわざありがとう」
出会い頭に緑茶をぶっかけるなんて、お茶目さんじゃないか。人によっては何をされても文句は言えない気がする。
そのまま立ち去ろうとする私にペットボトルを投げてきたので、キャッチ&リリース。彼女の可愛い顔の横をかなりの速度でペットボトルが横切った。ナイスコントロール、私。
「お礼は制服のクリーニング代の請求書で良いよね」
タオルを貸してもらおうと保健室に向かう途中、へなへなと座り込んだその子の頭を撫でやった。勿論、緑茶のしたたる左手で。