者よ聞け




「ねぇ財前、」


「何です?」


「蔵は浮気じゃなかったよ」


「………じゃ、何で別れたんすか?」


「浮気じゃなくて本気だったみたい。あと、別れたって宣言はしてないよ」


浮気現場を目撃してから、私は蔵と1度も話していない。クラスが違うのが唯一の救いだが、小春ちゃんに心配をかけていることだけが不本意だ。


「サッカー部の部長、彼女サンと別れたらしいッスわ」


「あぁ、あれは我ながらナイスな写真だったからねぇ」


サッカー部の友人に送った写真。幸せそうに笑いあって、恋人繋ぎの両手と、お似合い過ぎる2人。甘ったるい空気に、誰もが羨む理想のカップル。

唯一の欠点は2人共、他にも恋人が居たことで。


「それより、蔵に怒られないの?」


「まぁ俺はどっちか言うたらアンタの味方やから」


彼は私と話がしたいらしいが、生憎私のケータイは登録されていない者からの連絡を拒否する。
小春ちゃんや忍足、一氏なんかは私に蔵と話すよう促すが…残念。そんな気まったくない。流石に普段あまり見かけない千歳にまで言われたのは吃驚したが。


「蔵が来ないと、お話にならないのに」


「なぁ、」


ふと、真剣な眼差しが私を見つめた。


「部長のこと、アンタはどう思ってはるん?」


「好きだよ」


即答。意外なのか、財前は目を見開く。けど、浮気だろうと本気だろうと、そう簡単には嫌いになれない。だから付き合って、彼女でいたつもりだったのに。


「ただし、性格以外」


最初に惚れたのは顔じゃなかったのにな。















「なぁ、いい加減…」


「別れたいって?うーん、サッカー部の部長さんが何て言うかによるかな」


にっこり。怒気をはらむ彼に、敢えて喧嘩を売ってみる。だいたい、いきなり手を引かれて保健室のベッドに押し倒すなんて厭らしい。


「ふざけとるん?」


「蔵が、でしょ」


ギリギリギリ。女の子相手にこんなに力を込めて腕を掴むなんて、絶対ふざけてる。痛くて仕方ないんだけど。


「俺のこと要らへんの?」


「蔵が、私のこと要らないんでしょ?あぁ私から言うべきなのかな、別れようって。でもさ、蔵から言って欲しいな。諦めつくから」


余裕が無い彼の表情。それなりに長い付き合いで、初めて見た。


「やっぱり可愛い子が良いの?お似合いだったもんね、あの子。性格は…あー浮気する子だからちょっと分かんないけど蔵が好きなら良いんじゃない?」


嗚呼汚い。汚くてドロドロした嫌な感情が溢れ出す。蔵のことは、今でも好き。でも、今は世界中の誰より嫌い。本当に腹が立つ。浮気なんかしてない、か。うん本気だったからね。本当に最低。要らないなら、早く捨てれば良いのに。無駄、嫌いなんでしょう?


「名前、」


「ねぇ、白石クン」


今更気持ち悪いな、名字呼び。


「私は誰かに縋ったりしないんだ。縋って欲しいなら他の子にしなよ」


それから、と。
力を振り絞って、額で彼の顎を打つ。あー、痛い。


「別れようか。今までありがとう」


緩んだ隙に、腕から逃れる。
バタン!五月蝿いぐらいに扉を閉めて、駆け出す先は分からない。


けど、



どれだけ胸が痛くても。泣いたりなんか、死んでもしない。








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