類と君と悪徳ウサギ


生徒会長なんか2度となるものかバカヤローと思いつつ生徒会室のちょっと良い椅子を後ろに倒して、足を書類を退かした机に置く。誰かに見つかったら怒られそうだが知るか。最近寝てないんだから寝させろ8時間ぐらい。


「………」


目を閉じても脳裏をよぎるのは書類のこと。提出期限は早いものから11日…16日…21日…。確か今日は9日だから、と考えたところでパチッと目を覚ました。


「あ!」


「いきなり大きな声を出さないで下さい。それからその姿勢…、一応は生徒の模範となるべき立場なんですから止めなさい」


「今日木手の誕生日じゃん!」


「話を聞きなさ…、忘れてたんですか?」


ハァ、と溜め息をつく木手の存在にようやく気がついて私はガタガタと椅子から立ち上がる。


「ていうかいつの間に?!ノックしてから入れ!」


「しましたよ。返事が無いから入ってきたんです」


「返事がくるまで入るな!」


「散々待たせたくせに喧嘩売ってるんですか?」


ぎゅーっと鼻をつままれた。痛い。


「違うんだよ忘れてたわけじゃないよ」


「まぁ最近は仕事に忙殺されていることぐらい知っていますよ」


「誕生日おめでとう」


「ありがとうございます」


「プレゼントと言っては何だがこの書類を差し上げよう」


「遠慮します」


「ですよねー」


カリカリカリカリ。仕方なしに進めてみようと思ったがやはり進まない。ていうか利き手が痛い。両利きになりたかった。


「終わるんですか?」


「気合いで終わらす。提出期限今日じゃないし」


ただ単に溜めると後日死亡フラグが乱立するから早めに終わらせたいだけだ。


「人の誕生日を忘れてた挙げ句書類に付きっきりですか」


「違うよ。書類のせいで木手の誕生日忘れた…って違う違う!思い出したから!」


しかし、プレゼントも何も無い。まぁそれ以前にこの男が何を貰えば嬉しいか知らないのだが。


「あぁ、じゃあコレあげるよ」


「なんですかそのぶさ…可愛らしいウサギは」


「今不細工って言おうとした!」


渡したのは、ケータイに付けていた、家庭科で裁縫の時に余った布で作ったウサギである。ちなみに裁縫は得意なので出来は良いのだが…顔のパーツを同じクラスの平古場と甲斐によって改造された為、不細工というか凶悪な表情である。通称“悪徳ウサギ”…甲斐にはネーミングセンスが無い。


「なんだよー、せっかく私が作ったウサギなのに。顔が悪いのは平古場と甲斐のせいだよ」


せっかく何かあげようと思ったのに受け取ってくれないのかとケータイに付け直そうとすれば、ひょいと悪徳ウサギは彼の手に渡った。


「女性からの贈り物を頂かないのは失礼ですからね」


「その子、名前は悪徳ウサギだから」


「……………甲斐クンですか?」


「わかってんじゃん」


木手の手に不細工なウサギのぬいぐるみ。自分で渡しておいてなんだが、シュールである。


「有り難く受け取っておきますよ」


「ぜひケータイに付けてくれ」


「……………考えておきます」


あ、絶対付けないなコイツ。


「それよりもさ、私は君がわざわざ誕生日プレゼントを強請る為だけに生徒会室に来るとは思えないんだけど?」


「勿論そんなことの為だけに来たりしませんよ。これ、お願いしますね…あぁ期限は今日までだそうです」


ぺらり。渡された書類を、本気で破こうかと思った。


「先に言えぇぇぇっ!!」


「五月蝿いです。あぁ、それから帰りは待ってますから」


「木手のせいで私が待たせる側に!待たせない主義なのに!」


「何度も言いますが監督のせいです。それじゃ俺は失礼しますよ」


「さっさと帰ればーかっ!やっぱ悪徳ウサギ返せ!」


涼しい顔して部屋を出る木手に中指を立てる。


「絶対部活終わるより先に終わらせて“女性を待たせるなんて酷いなぁ”ってドヤ顔で言ってやる」



そんな野望を胸に抱いて、私は書類に取りかかった。










木手のケータイにあの悪徳ウサギがぶら下がっていて、平古場と甲斐が羨ましがったのを見たのは別の日のこと。



………可愛いか、あれ?









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