抜け駆けはした者勝ち
「名前ーっ」
ぴょーんと言わんばかりに抱きついてきた雅治を受け止めれば、すりすりと頬擦りされた。
「優勝したナリ」
「うわぁ悪い表情だ詐欺師の顔」
「あ、仁王だけってことはないよな?俺明日の昼も手作り弁当な」
「私は今、今日のお昼にみんなの分の弁当を作った自分の優しさを後悔してるよ」
弁当の代わりに優勝してくれるんじゃなかったのか。蓮二も言ってたが特別扱いが必要なのかコイツらは。
「俺はどうしようかのぅ」
「簡単なものにしておくれよ」
「さっきの試合は相当頑張ったんじゃが?」
「………」
そう、先ほどの試合は決勝に相応しい良い試合だった。つまりそれほど彼らが頑張ったわけで。
「さーて蓮二はどうなったかなぁ?」
「あ、さっき僅差で柳の勝ちって赤也が言ってた」
「…って、ことは」
「俺らの総合優勝だぜぃ。つーわけでホイ」
さらさらと紙に何かを書き終えると、ブン太はそれを私に渡した。
「これ食べたい」
「うわぁふざけんなよ何この量」
「シクヨロ!」
「なんだろ泣きたいなむしろ優勝しない方が良かったかも」
「俺は名前を食べたいぜよ」
「雅治、性別変わるよ?」
「………冗談ナリ」
真剣に返せば、雅治とブン太は少し私から離れた。
「さて、約束通り俺は優勝したわけだが」
「幸村が上機嫌で真田が不機嫌な温度差が怖いから場所変えようよ」
部室にて。球技大会だろうが優勝しようが部活は部活だ。後日クラスで打ち上げをすることになってはいるのだが、日付は次の考査の最終日が妥当だろうか。
「なんで総合優勝の為にブン太にお弁当で雅治はこのままで蓮二とデートしなきゃいけないんだろ」
ちなみに雅治は私の背中から離れない。今週(現在火曜日)は引っ付きたいだけこのままらしい。正直に言おう、邪魔である。
「何?!参謀ズルいぜよ!」
「抜け駆けッスよ!」
「赤也はともかく仁王は何故そうしなかったんだ?」
「1回で終わるデートより、ぎゅってしてたいナリ」
「………最近雅治とブン太を止める自信無くなってきた」
そこで無言で蓮二に肩に手を置かれた。………同情するならどうにかしてくれ。
「土曜は空けておけよ」
「へいへい」
「柳先輩ズルいッス」
「俺も行くぜよ」
がばっと背中に乗ってこられ重い。
「別に構わないが。………それは俺に対する宣戦布告か?」
「名前気をつけて行ってくるナリ」
何かしらの危険を感じたのか速攻で雅治は私からおりた。…というか、私を盾にする感じだこの野郎。
はぁ、と溜め息をついたのは雅治よりも面倒であろう魔王陛下が部室から出てきて、それは素敵な笑顔だったからだ。