計に熱い




「テメー木手ふざけてんのかバカヤロー重要書類は早めに出せっつってんだろーが部停喰らわすぞ阿呆」


「生徒会長だからってそこまでの権限はないでしょう。それに提出書類の時期が重なって多忙だからって八つ当たりは見苦しいですよ。それからその口の悪さ…もう少し女性らしく振る舞えないのですか?」


生徒会室にて。目の前でわざとらしく溜め息をつく木手を睨み付けながら私は彼の言う通り誰かに八つ当たりしなきゃやってられないような書類を片付けていく。


「沖縄暑いし木手は私をいじめるし書類は終わらないし提出明日まで…ってアレ?もしかしてコレも明日まで?」


「えぇ、そうなりますね。あ、その件についての文句は私ではなく監督にお願いします」


「あのハゲ爆発しないかな。ビッグバンがあのハゲを中心として起こらないかな。周りに被害が出ないレベルで」


「それは私も祈りますが確率的にはとても低いのが残念です」


もともと本土出身の私には沖縄の暑さはキツイ。教頭に直談判して入れてもらった扇風機は私専用となっていて、書類の邪魔にならない程度の風がそよいではいるが、暑いものは暑い。クーラーを入れて欲しいが流石にそれは無理だった。


「もー、テニス部は書類出すの遅いから嫌いだ。こないだのだって私が…あ、思い出したらイライラしてきた。アイス奢れ紅イモのやつ」


「貴女は本当にそれが好きですねぇ」


「沖縄の味覚は合わないと思うけど紅イモとサーターアンダギーの美味さは異常だと思う」


そんなことを言いながら、最優先でテニス部関係は終わらせる。あー本当に私は彼に甘い。超良い人である。


「…仕方ありません。偶には奢って差し上げますよ」


「え?ホントに?やったやる気出てきた」


「いつも最優先で処理してくれますからね、俺達の書類は」


気付いていたのか。なんとなく気恥ずかしくて、書類に目を戻す。


「………まぁ、最優先で処理しないと期限に間に合わないってのもあるけどね」


あながち嘘ではないから問題だ。本当にあのハゲは爆発しろ。私の視界に入らない場所で。


「部活が終わるまで待っていて下さい」


「わーい木手と放課後デートだ甲斐誘おーっと」


くるくるとペンを回しながらそう言えば、ちょっと顔をしかめられた。


「2人きりは不満ですか?」


「いや、照れる」


「………もうちょっと、とぼけるとかしなさいよ」


「そんな可愛らしいリアクションなら他の子をあたっておくれ」


さて、そうと決まればさっさと書類を終わらせてしまおう。今やっているのは教師の判子が必要なのでと、別の書類に手を伸ばす。

…時。

くいっと額を押さえるように前髪を上げられて、額に柔らかい感触。


思考停止。


再起動。


情報処理中。


…現状確認。


何事もなかったかのように去る木手の背中に、顔を赤くした私がシャーペンを投球。
シャーペンは丁度良く閉められた扉によって跳ね返る。


「部停喰らえばーかっ!」


仕方なしにシャーペンを拾ってから、真っ赤であろう頬を冷ましたくて扇風機の前に顔を持ってくる。


沖縄の暑さに、私は耐えられない。








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