愚者に告ぐ
可愛い子だった。お砂糖みたいな女の子。
如何にもお似合いと言った雰囲気の誰もが羨む恋人同士…みたいなね。
「蔵、」
多分、彼には聞こえてない。彼もきっと、こんな所で誰かに会うだなんて思ってないのだろう。可愛い子、確か隣のクラスの子でサッカー部だかの部長の彼女サンらしいけど。
まぁ、私も今まで自分のことを蔵の彼女サンだと思っていたのだけど。
「………」
言ってくれれば、良かったのに。別れてくれたなら、楽なのに。前からちょっとだけあった噂だから。私が訊いた時は、否定してくれたのに。
『蔵?』
『んー?』
幸せだった。だけど、いつからか違和感はあった。…そんな時に財前が教えてくれた噂。気になったから訊いてみる。
『浮気してるって本当?』
『なんやそれ。誰に言われたん?俺には名前だけやで』
そう言って抱き締められたことすら、今はただ滑稽なだけ。
「信じてたんだけどなー」
誰に言うでもなく呟きながら、私は最高の演出を考える。
雑貨屋。2人で手なんか繋いじゃって、あーあ見せ付けかっての。不思議と腹は立たない。穏やかな気分。
こんな場所で会うとは思っていないだろう2人の前に、笑顔で手を振った。
「奇遇だね」
「…ッ、名前?」
あぁ、普段は完璧な君の表情も崩れるんだね。良いものが見れたから彼女サンを弄るのは止めてあげよう。私、寛大。
「蔵は嘘はついてないよ。
“浮気”じゃないね。“本気”みたいだから」
「名前、待ち…」
「どうぞ、お幸せに」
中指を立てて颯爽と去る。蔵は追いかけようとしたらしいが、人混みに紛れれば私の勝ち。
さて、蔵のアドレスを消した後はサッカー部の友人にメールでもするかな。
部長サン、彼女とうまくやってる?ってさっきのツーショットの写メ付きで。