白後の逃亡劇


朝、目覚ましを見たら絶賛遅刻コース。マッハ(誇張表現)で支度を済ませて全力疾走(事実)。現役陸上部舐めんな!短距離だから体力的にはキツかったけどな!とか思いつつ靴箱でふぅと溜め息をつきながら中を見たら1枚の手紙に思考停止。

ダダダダダ!とお金持ちの集まる氷帝学園の生徒には相応しくない品の無い疾走。


「どーしたんだ名前?」


「果たし状!」


私の異変を察したらしい宍戸君が首を傾げる。正しい反応だ。


「はぁ?」


「実はですね…、こんなものが私のロッカーに入れられたワケなのですよ」


広げるのは1枚の手紙。
丁寧な字で“放課後、屋上で待っています”…ヤバい、ついに私にも果たし状が。多分陸上で短距離走のライバルであるアイツか、または宍戸君ファンの子か、昨日絡んできた不良か…ってアレ結構心当たりあるよどうしよう?!


「………いや、これってフツー告白とかじゃねぇの?」


「罪の?いやいや私まだ悪いことバレてない」


「軽く自首すんな。つか告白っつったら、その…」


「“好きです付き合って下さい”“鏡見て出直して来い”…みたいな?ナイナイ、私相手に惚れた腫れただの」


「なんだその告白イメージ」


だいたい私の好きな人は今目の前にいる頼れる兄貴こと宍戸君だし。きっと告白じゃないよウン。あー、ついにお呼びだしってヤツか靴に画鋲とか入ってたらどうしよう。確認。セーフ。陸上部が足を怪我とか笑えない。


「どうすんだよ?」


「女の子なら穏便に、野郎なら…うん全力で」


「お前な…」


宍戸君がやたら複雑な表情をしていたけれど、私は相手が宍戸君ファンだった場合を考えて、どう話し合うかを考えていた。















「好きなんです!付き合って下さい!」


「鏡見て出直して来…ハイ?」


屋上に気合いを入れて来たら、其処にいたのは陸上の後輩。短距離走のライバルでもなくあれ確か長距離の子じゃないか。


「俺、ずっと先輩のこと…」


「あ。ゴメンナサイ無理です私好きな人居るんで」


「は?」


友人によく言われるが、私は引っ張らない主義らしい。話を速攻完結させる。多分短距離走の選手だからかもしれない。


「なんだ本当に告白って、怖いお姉さんの呼び出しかと気構えちゃった。
君の気持ちは嬉しいけど好きな人いるから付き合えませんサヨナラ」


くるり。
その場から去ろうとしたらガシッと腕を掴まれた痛い痛い痛い!


「テメ、喧嘩なら倍額で買う「誰ですか?」…へ?」


ヤバい素が出かけた氷帝に来てからは隠してるのに。


「先輩の好きな人って誰なんですか?俺に諦めてもらうための嘘じゃないんですか?」


静かな…、酷く必死な表情と、痛いぐらいに掴まれる腕。


(私の何が良いんだか…、)


もっと可愛い子だって優しい子だっている中で私を選ぶ神経がわからない。

けれど。


「同じクラスの…」


応えないのは、駄目な気がした。


「宍戸君」


あ、名前呼ぶだけで幸せとか私重症。でも覚えたての言葉みたいに、何度だって呼びたい。好きなんだ、私が彼を。


「………」


するり。腕が離される。
握られた場所は、少し赤くなっていた。


「謝らないよ。でも、ありがと」


そう笑って、校舎へと戻る扉に手をかけて、中へ入る………と。


「あ」


「へ?」


何故かいた宍戸君と、目が合って。
彼には珍しく、赤面して…て?


「○×●щ♂∴¥■ФёΞ(◎o◎)≧Yn仝Rq~dエ*…ッ!!」


声にならない絶叫と同時に、私はダッシュ。陸上部短距離走選手舐めることなかれ。


持久力勝負だと、ヤバいけど。















……………

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