鹿だと笑ってくれて結構


自分から手放したくせに。
どうしてこんなに、心臓が痛い?



「…いし、白石!」


「あ、あぁ謙也。どうしたん?」


曖昧に笑う表情は酷く滑稽なのだろう。不安げな様子で謙也はこちらを見る。そんな心配する必要なんか、これっぽっちも無いと言うのに。


「お前、大丈夫か?最近変なんとちゃう?」


「んなことあらへんよ、ちょっと疲れとるだけや」


「…なら、ええけど」


納得出来てないらしいが、本当に、これは強がりでもなんでもない。ただ、最近は疲れてるだけだ………そうやって自分に言い聞かせなければ、今にも縋りついてしまいそうで。





例えば、1人で居る時は特に。
あんなにも狭かった2人だけの世界も、君が居なくなっただけなのに。無限以上に広く感じられて。
中途半端に降る雨の中、今にも泣きそうに「さよなら」とだけ呟いた君を思い出すたびに、声を張り上げて泣きたくなる。

自分には必要無い存在だと、勘違いしていたのに。


(笑い飛ばしてくれへんかな)


あの時みたいな、俺の名前を呼ぶときみたいに無邪気な声と表情で。


「離れてから気付くなんて遅いよ。今回で学習出来た?」


そう言ってくれたなら、強く抱き締めて、2度と離さない。


なのに…、



「もう、遅いっちゅー話やな」



こんな僕を馬鹿だと笑ってくれないか。

こんなにも駄目な奴だから、君が居ないといけないと、もう1度笑ってくれないか。





やっぱり、君のことが誰よりも好きなんだ。














……………

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