蜂蜜漬けの猛毒
「名前センパーイッ!」
「へ?」
昼休み、廊下にて。赤也がぎゅううっと抱きついてくる。私は握力測定器ではないのだが力一杯抱き締められ、痛い。結構本気で。それを見て柳は苦笑するが、止めてくれると有り難い。
「赤也、痛い苦しい」
「だって離すと恥ずかしがって逃げるじゃないスか」
いや、そもそも抱きついてこなかったら逃げないよ。おかげで君のファンからの視線も痛い苦しい。
「逃げない逃げない」
「赤也、せめて加減してやれ」
「はーい」
助けてくれたのは有り難いが柳の言うことは素直に聞きやがってこの野郎。
廊下という衆人環視の中すりすり。これなんて羞恥プレイですか?ちなみに私は彼の恋人ではない。我が立海大のテニス部員と付き合う勇気なんて、残念ながら平凡を美徳とする私にはなかった。…ので女子からの羨望だか嫉妬だか興味かは知らないが視線が痛い。…のには既に慣れてしまった自分が悲しい。
「お昼一緒に食べましょーよ!」
「またか!ていうかその為に先輩達を駆使するな!」
ちなみに昨日は仁王と丸井が購買に居た私を確保しに来た。
「いや、昼休みにお前を確保するのは俺達が勝手にやっていることだが?」
「有難うございます!」
「この先輩馬鹿!後輩煩悩!」
赤也が私の何に惚れたのかは知らないが、私が彼の告白という形でその事実を知った日から、今までほとんど接点のなかったテニス部とそれなりに関わるようになってしまった。主に向こうから来るのが原因で。しかも理由が“可愛い後輩の為”………君は良い先輩を持ったな。
まぁ、柳とは残念ながら元々同じクラスだけど。
「やーだー、アンタらに関わると女の子が冷たくなるー」
「だから、俺達が嫌がらせの類を排除しているだろう?」
「そもそも関わらなかったらそんなことにならなかった!」
しかもサラッと怖い事実を。どーりで一部の熱狂的ファン達が大人しくなったわけだ。
「嫌ッスよ。俺、名前先輩と関わらないとかマジ無理なんで」
ぎゅっ。腕の力が強まる。ストレートな台詞のせいもあり、された側的には赤面。なんで普段は可愛いのに、声とか目とか男前なんだよ心臓に悪い。あと柳、お前興味深そうにするな腹立つ。
「別に…赤也が嫌だと…は、言ってない」
「先輩!」
「痛い痛い痛い痛い!」
ぎゅうううう〜っ!空腹に関係なくお腹と背中がくっつきそうだ。
わぁ、すげー嬉しそうな表情。うん、柳達が後輩煩悩になる気持ちが分からないでもない。これは可愛い。
「名前先輩大好きッス!」
「!」
体温上昇。主に顔が。先生、私熱があるみたいなんで帰っても良いですか?
(あーもー毒されてる…)
完全に駄目な傾向だ。何が駄目って、毒されてると知りながらそれでも良いと思ってる自分が。
「早く屋上に行きますよ!」
「その前に自販機。炭酸飲みたい」
何やかんやで、手とか繋いじゃってるとことかね。
「せっかく俺達が協力してるんだから、さっさと結ばれないかな」
「アイツらもう恋人同士で良くね?」
「名前はその辺疎いからのぅ」
「ですが、端から見れば立派な恋人同士ですよ」
「…後輩煩悩、か」
実は様子を窺っていた精市達を見て、俺は苦笑する。
「言い得て妙だな」
それは彼もなのだけど。
……………
title:hmr
後輩煩悩なみんなを書きたかった…ハズ。可愛い赤也が好きなんです。