She is not my angel.
初めてそれを見た時、俺は柳生先輩に良い眼科医を紹介して貰わねばと思った。
「げーんっ!」
ぴょんっ、と。
見るからに可愛らしい女子が、真田副部長に正面から抱きついたのを見た時は。
「なんじゃ、知らんかったのか?」
「まぁ名前はあんま学校に居ないからなー」
「え。何でそんな人が副部長の彼女に?」
部室にて。
あまりの衝撃を受けた俺とは違って、先輩達は平然としている。
「学校に居ないと言ってもサボりではありませんよ」
「病弱なヤツでのー。本来ならずっと入院しているべきらしいんじゃが、調子の良い時だけ学校に来るんじゃよ」
ちなみに、成績は柳先輩や柳生先輩より良いから(俺には想像つかない成績だ)学校としても許容する超特待生らしい。
「へぇー、だから先輩達みんな甘いんスか?」
「まぁな。体が弱いっての抜きにしても、甘やかしたくなるようなヤツだぜ」
「三強は過保護の域じゃがのぅ」
うんうんと柳生先輩まで同意する。あの三強が過保護…。俺には想像出来ない。
なんて思っていたら。
「ちょっと、いい加減離れなよ」
「やだ。弦の背中好き」
「…だ、そうだ。良かったな弦一郎」
「既に知っている」
副部長の背中にぶら下がった彼女サンと、三強が部室に入ってきた。
「名前、降りろ」
「はーい」
「なんで真田の言うことは素直に聞くわけ?」
「蓮二の言うことも素直に聞くけど?」
「何それ俺に喧嘩売ってる?」
「買ったらもれなく弦がついてくるよ」
「うっわ超要らない」
「………」
幸村部長の台詞にハァと溜め息をつきながらも、副部長は背中に隠れる名前サン?の頭を撫でる。
「なぁ名前、コイツが初対面らしいから自己紹介してやれよ」
そんなやり取りの後で丸井先輩が俺を指して言った。
「赤也クン、だよね?初めまして名字名前です」
「ッ、切原赤也ッス」
ちょこんと俺の前に来たと思ったら、ふわり笑顔。あ、やべぇ滅茶苦茶可愛い。なんかちっこくて、こう抱き締めたいって言うか…いや相手は先輩だけどさ。
「大丈夫?弦にイジメられたりとか」
そう言って白くて綺麗な手が俺の頭を撫でながら、良いなぁ後輩、なんて。俺も今、俺が2年で良かったなんて親に感謝してたりするのはさて置き。
「赤也ばっかりズルいナリ。名前、俺も撫でんしゃい」
「…だってさ、やぎゅ」
「お断りします」
「柳生には頼んでないぜよ」
柳生先輩が仁王先輩の頭を撫でる。…シュール過ぎる。
「それより、しばらくの間は学校に来れるんだろ?」
ジャッカル先輩の問いに、俺の心が躍ったのも束の間。
「うん。蓮二と一緒のクラス」
部室の気温が下がった原因は1人しか居なかった。
「弦一郎、そう睨むな」
「別に睨んだつもりはないが?」
「「「………」」」
副部長こっえぇぇぇぇ。それを見て笑ってられる部長と柳先輩マジ勇者だろ。
「どーせA組に遊びに行くけど」
そんな空気を打ち消す笑顔、名前先輩マジ天使。
「あと部活も見に来るからね!」
それが一番楽しみなんだ〜って、ヤバい本当にこの人可愛い。
俺の天才的妙技見せてやるぜぃ、とか言ってる先輩達に期待してる、とか返して、ぜってー俺も良いトコ見せてやるなんて心に誓った。
けどさ!
「弦に見とれてたらゴメンね?」
「………」
うん。流石は副部長の彼女サン。
天使の皮を被った悪魔だ。
ゴホッ、と咳き込んだ真田副部長が妙に腹立だしかった。