89%+α
カキン…ッ!
本日球技大会。
計算され尽くした打球は守備を抜けて、ランニングホームラン。
ベンチに帰ればクラスメートからの手厚い…いや手荒い歓迎。それはともかく。
「きゃーれんれん格好良いー!」
「れんれん素敵ー!」
「さっすがれんれんじゃのぅ」
………。
今は試合が終わったらしい名前と、悪ノリ全開な丸井と仁王からの応援に思わず舌打ちしかけた。
百歩譲って名前は良い。若干惚れた弱み感があるが良しとしよう。
問題は嬉々…いやニヤニヤと此方に視線を向けてくるB組の2人だ。
確かあいつらは次は弦一郎達との試合だったから、弱点を流してやろうと心に誓った。
「蓮二格好良かったよー!」
日差しを嫌う彼女は野球帽を被りながら、団扇を片手に駆け寄って来た。今日は気温が高いから、扇いでくれるのは有り難い。
「お前の試合はどうだったんだ?」
ワンアウト1塁で3−0、試合は時間の都合上5回までだが現在4回表。
これは決まったなと確信しながらも、パタパタと扇ぐ名前に問う。
「勝ったよ!次C組と決勝!」
「名前活躍してたぜ!れんれんは試合の時間モロ被りで見れなかっただろうけどな!」
「現役顔負けだったのぅ。れんれん、名前の勇姿は代わりに見といたぜよ」
「そうか、それは良かったな」
表面上は相変わらずだが、内心は穏やかでない。
「ところで、お前らは次の試合が弦一郎達だったな…?」
「ぎくっ」
「さぁー?なんの話かのぅ」
「え!真田とやぎゅと?どっち応援しようかなぁ」
なんて、名前は可愛らしく考えているが、2人の目は泳いでいる。
「覚悟しておけ。…それから、名前の決勝は一番最後の時間だったな?」
「うん、応援に来てね!」
「当たり前だ」
ぽん、と丁度良い位置にある彼女の頭に手を置けばはにかんだ笑みを返されて、思わず頬が緩む。
顔色の悪くなった2人を一瞥した後、俺は攻守交代の為にグラウンドへ駆けた。
名前の笑顔に免じて、丸井と仁王への嫌がらせは、本当に少しだけ軽減させてやろう。
元々、次の彼らの試合でA組が勝つ確率は89%だけれども。