のっとじぇんとる
(どうしてこうなった…)
次の数学ダルいなぁと思って。そーいや立海に来てから1度もサボったことがないからやってみようかなんて保健室に来たのが間違いだったらしい。
「俺、ずっと名字先輩のこと…」
ベッドで寝ていたら、いきなり覆い被さってきて、両手を顔の横で押さえられている。
(この手の告白…、いやむしろ告白かこれ?)
結構危機的状況だがどこか冷静に考えていた。
(戻って来ないかなぁ保険医)
タイミングよく保険医が現れて平和的解決を望んでいるのだけど、そんな気配は一切無い。
「だから…っ!」
「お取り込み中、失礼。男女の逢い引きならもっと人の来ない場所を推奨しますが?」
そんな時、酷く空気の読めない…けれど私にとっては救いの声が響いた。
「ねぇ柳生、一緒に眼科に行こうか?」
しかし、内容があまりにもふざけていた事が地味にむかつく。
「え、あ、俺…っ!」
私の手を押さえていた名前も知らない彼は予想外の人物の乱入に慌てて保健室を出た。
「あー、平和的に解決出来て良かった」
「お役に立てて何よりです」
けれど、と。
ギシッとベッドの軋むスプリング。
「にょ?」
アホっぽい声が出た。
顔のすぐ横には柳生の手があって、見上げる天井を柳生が遮る。
「授業をサボるのは良くないですよ?」
「今授業中」
「A組は自習です」
「サボって良いワケじゃないからね?」
彼を見上げながら、よく雅治が言う“お前は紳士じゃなか”って言葉を思い出した。
「うん、確かに」
「…何がです?」
「やぎゅ、偶に紳士じゃない」
くすりと笑えば、一瞬キョトンとした顔をされた。そして溜め息。
「…はぁ。お仕置きのつもりだったんですが、貴女に効くわけがありませんね」
「うーん、柳生には懐いてるからねぇ」
柳生はベッドから降りて、私も上半身だけ起き上がる。彼が何か言おうとした、その瞬間。
「なーにしとるんじゃ、2人して」
酷く不機嫌な声が聞こえた。
「あ、雅治」
「仁王君までサボりですか」
「俺に黙って名前と逢い引きなんて良い度胸じゃのぉ、柳生?」
雅治はベッドに乗って抱きついてくる。
「しっしっ、」
手払いは、柳生に向けて。
「何やってんのまー君」
「虫除けじゃき。やぎゅは早よ教室に戻りんしゃい」
「何言ってるんですか、仁王君も戻るんですよ」
「俺はこれから名前とイチャイチャタイムぜよ」
「さぁて、教室に戻るか」
雅治の腕を払い、ベッドから降りてスリッパを履く。
「釣れんのぅ。名前が出るなら俺も行くナリ」
「ピク●ンか」
「懐かれてますね」
「やぎゅには懐かんぜよ」
(ウッソだぁ)
何だかんだ言って懐いてるくせに何を言っているんだ。
「いえ、仁王君に懐かれても嬉しくありませんし」
そんなことを考えていたら、柳生の綺麗な手がぽすっと頭を撫でる。
「彼女に懐かれていますので」
勝ち誇ったような雰囲気(あくまで雰囲気。表情に出さないのが紳士というか小憎たらしい)で彼は言った。
「なんかムカつく」
「それでは、2人共早く教室に戻って下さいね。アデュー」
「あでゅー」
ちゃっと手を上げてその挨拶に応える。
「ね、雅治?」
「………なんじゃ?」
にゅー。雅治の頬を摘めば怪訝な表情。
「本物だよね?」
「? コート外で入れ替わるなんて滅多にしないナリ」
「………そっか」
納得していない雅治の頬を両手で遊びながら、思った。
(あんなことするから雅治かと思ったのに)
なんだか柳生に押し倒された形になったかと思うと………照れる、というかなんというか。
「やっぱり、紳士じゃない」
そう言って未だに小首を傾げる詐欺師と共に教室へ帰ったら、ブン太も居なくて探して来いと言われ………そのまま彼らと授業をサボったのは後の話。