さしずめ墓場までの地図かと
※高校3年
「生徒会室は避難所じゃないですよー」
「お前のサボる場所でもないがな」
生徒会室のソファにてケータイをいじっていたら、見知った男がいきなり入ってきて、扉の鍵をしめた。
−−−日付は10月4日。
あぁ、今日は跡部景吾の誕生日で彼にとってバレンタインと同じぐらい厄介な日だったかと思う。
「毎年毎年お疲れ様」
他人事なので興味も無く言えば、彼は此方に近寄って来た。
「渡すものは?」
「はい、こないだの書類」
「じゃねぇだろ」
せっかく人が1時間ぐらいかけてまとめた書類は床に舞う。
まったく誰が拾うと思ってるんだなんて思いながら非難の目を向ければ、くいっと顎を持ち上げられる。
「名前…?」
「はっぴばぁすでぃ跡部ーっ♪」
「お前、まさか本気じゃねぇだろうな」
パチンとケータイを閉じられたと思った次の瞬間、跡部の向こうにシミ1つ無い天井が見えた。
「もー、別に今更プレゼントとかいらないでしょーが」
「………ほーぉ、去年みたいに忘れたワケじゃねぇだろうな?」
「あははは、あの時の跡部は面白かったなぁ。ちなみに忘れたんじゃなくて知らなかったって言ったじゃん」
「で…、今年は?」
「んー、欲しい?」
「いや、用意してないならないで構わないが?」
細くなった獲物を狙う瞳に脳内警報発令。あまりからかうと自分が大変なことになると学習済みなので、ついと床に落ちた書類を指差す。
「あーん?」
先程は気付かなかっただろうが、書類の中には味気ない封筒があった。
彼はそれを拾い上げ中身を見て…、
「!」
がばりと私を抱き上げたかと思ったら、いきなり呼吸が奪われた。
「ん、んーっ!」
じたばたじたばた。
喜んで貰えたのは何よりだが、彼の誕生日が命日になるなんて笑えない。
「は…っ、」
やっと酸素が得られたと思ったのも束の間。何度も何度も深いキス。うん、くらくらしてきたぞ。
「返してやらねぇぞ?」
「あげたものだからね、お好きにどうぞ」
ニヤリと笑う彼は、あぁ本当に色男。
「でも、良いの?墓場らしいけど」
「名前と向かうなら構わねぇよ」
そう言って、また無くなる酸素に確かに墓場に向かうことになるかもしれない。
(プレゼント…、あってもなくても同じじゃん)
ほら。また跡部の向こうに天井が見えて。学校なのも気にせずに食べられてしまうのかなんてぼんやりと思う。
ひらりと、紙が床に舞うのを視界の隅で捉えたけれど無理矢理意識は跡部に戻される。
結婚が人生の墓場なら、婚約届はそれまでの地図でしょうか?
何にせよ、18のプレゼントだからこそ意味があるのです。