離れたくなかったり
「いーやーや!離れとうない!」
「駄ー目ーじゃ!名前は俺らのぜよ」
「私の人権を返せ」
「名前、これも宜しく」
「見てないで助けておくれよ周助」
「モテモテだにゃー」
「あんまり嬉しくない」
さぁ洗濯だと思って荷物持ちに金ちゃんに来てもらったら、いきなり抱きつかれてそれを目撃した雅治が剥がそうとする…が離れない。
「詐欺の兄ちゃんは名前とずっと一緒やん!ワイは明日でお別れやねんで!」
「それでも俺の目の前で抱きつくのは駄目ナリ」
「嫌や!…なー名前、四天宝寺に戻らへんの?」
「!」
私を挟んでの言い争いが一瞬だけ遠くなった。
「いつでも、戻って来なさい」
ぎゅっと、金ちゃんを抱き締める腕に力が籠もる。
「名前?」
「金ちゃん…、」
怪訝な表情をされたが、にこっと笑って言った。
「蔵が毒手構えてるよ?」
「 ?! 毒手は嫌や!」
ばたばたと逃げて行った金ちゃんの背に溜め息をつけば、毒なんか効きそうにない詐欺師が背中から抱きついてくる。
「あーもう、」
「名前」
「痛いのですが雅治君」
ぎゅううううう〜っ!とちょっと本気で痛いぐらいに抱き締める彼を振り返れる。
「…何処にも、行かんで」
「………、転校の予定はないけど?」
縋るように言われて内心ではドキリとした。転校する予定は無い。絶無だ。けど、
「名前と離れるの、無理じゃき」
その言葉には頷けない。
「名前を困らせたらアカン言うたやろ?」
「けど白石!」
「遠山、口答えは止めておき」
「う゛〜!」
先ほどの名前の発言は嘘だったのだが、戻ったら戻ったで白石に捕まってお説教。
「なぁー、白石。名前は元々は四天生やったんやろ?戻らへんの?」
「なんや、そんなに名前先輩のこと気に入ったんか。確かに魅力的やけど今からやったら直ぐ卒業してまうやろ」
呆れたような財前とは反対に、白石は目を細める。
「それは…、どうやろな」
その呟きに財前は首を傾げた。
「なんや明日からは名前ちゃんの顔が見えんと思うと寂しいなぁ」
「私も若やチョタに会えないと思うと寂しいよ」
「Aー!俺は?俺と会えないのは?」
「寂しい」
膝の上にジローが居るので動くに動けないというシチュエーションにも慣れてしまった。
「俺は?」
「別に?」
「なにわかりきった質問してんだよ」
体育座りになる侑士に目もくれず、景吾は言った。
「景吾は寂しがらなそうでツマラン」
「あーん?一生会えないワケでもねーのに寂しがる必要がねーだろ」
「ほらね」
予想通り過ぎな答えに少し笑って、ジローの頭を撫でる。
「まぁ名前が寂しいならいつでも会いに行ってやるが?」
「なにそれ。お断りしまーす」
「俺は断られても行っちゃうC〜」
「ジローなら断らないよ」
そんなやり取りに、体育座りをしていた侑士が振り向いた。
「俺は?」
「聞く必要、ある?」
別に、彼が嫌いなワケではないのだけど。