女の子ですから
「………何事だ?」
「いや、いきなり名前先輩が『赤也、膝貸せ』って」
俺、柳蓮二が部室に入ったら室内にある長椅子で困り顔のまま座る後輩とその後輩の膝を枕にして横になる名前の姿。
「名前、どうした?」
片腕で顔を隠す彼女の表情は見えないが何となく苦しそうだ。
「…死んじゃう」
「は?」
聞き逃しそうなぐらいの小さな声で彼女は言う。
「さっきからこんな感じなんスよ。痛いとか死ぬとか。
理由を訊こうにも仁王先輩も丸井先輩も居ないし…」
「ふむ」
見たところ外傷は無いから頭痛か腹痛あたりだろうなんて考えていたら、部室の扉が開かれた。
「………何事ですか?」
委員会で来るのが遅れるかもしれないと言っていた柳生と真田、それから幸村とジャッカルも部屋に入ってきた。
「ちょっと赤也、何羨ましいことされてんの?」
「へ、あ、いやコレは俺の意志に関係なく…っ!」
慌てて弁解する赤也を余所に、ジャッカルは尋ねる。
「名前はどうしたんだ?」
「いや、それが痛いとしか」
「体調不良でしょうか?」
「鍛え方が足りんな、たるんどるぞ名字」
「待て真田」
聞き捨てならないとばかりに今までぐったりしていた名前が首だけで此方…というか真田を睨んだ。悪い顔色のせいで妙に迫力がある。
「この苦しみに関しては真田に何か言われたくないな」
「あぁ、成程」
その台詞に幸村は納得したらしい。
「大変だね、女ってのも」
「…うっさい」
「あぁ、」
幸村のお陰で名前の苦しむ原因が分かった。
「確かに、我々には理解出来ない苦しみですね」
「あ、生理痛ッスか!」
「赤也!そのようなことを大声で…っ!」
「総じて黙れ」
知識としてはあるが、実感出来るものではないから彼女の苦しみは理解出来ない…のだが名前が珍しく不機嫌モード全開になるぐらいには辛いということは分かった。
「名前ー、クラスの女子からもらってきたぜぃ」
「しっかりするぜよ」
そんな時、今まで不在だったブン太と仁王が現れた。
「ほら、これ」
「ありがと」
ブン太から錠剤とペットボトルを受け取った名前はヨロヨロとそれらを飲む。
そしてそのまま、また赤也の膝の上に頭を落とす。
「赤也、場所代わりんしゃい」
「いや名前先輩に言って下さいよ」
よっぽど膝の上が気に入ったのか、彼女は言う。
「精市ー、薬効くまで赤也の膝使ってて良い?」
「赤也なのが気に入らないな。あ、イップスで痛みを奪ってみようか?」
「いや、それは止めておけ」
名案とばかりに提案した幸村を止める。彼はそろそろ人間の域を…いや、元から神の子だから仕方ないか。
「まぁ仕方ないか。治ったら直ぐ離れろよ?」
「はーい」
「あ、あと赤也は名前が離れたら俺と試合ね」
「………名前先輩、生理痛悪化してもらえませんか?」
「君は私に死ねと言うのか」
取り敢えず、合掌しておこう。