騎士とkiss(W)
金曜日の放課後。
「うそぉ…」
帰ろうと思ったら、雨が降り出してきた。
「傘、持ってないのに」
どんどん強くなる雨にテンションが急降下していく。
(タクシーは高いし、でも濡れて風邪引いたら…、)
こんなことなら生徒会の仕事など放って置けば良かったと思うが、明日は心置きなく楽しみたい。
(でも体調崩すのも…、うーん)
「あれ、ミラベル傘忘れたの?」
悩んでいると、気の知れた友人が声をかけてきた。
「うん、強くなったみたいだから困ってて…」
控えめにそう言えば、彼女は私に傘を渡した。
「私、迎え来るから使って良いよ」
「えっ」
「私はちょっとぐらい濡れたって平気だから、ね?」
笑顔で言われ、私は素直にその傘を受け取った。
「ごめんね、ありがとう!」
頭を下げればどう致しましてーと明るく返され、つられて笑顔になる。
良い友人だなぁとしみじみ実感しながら、私は帰路に着いた。
「…ってことがあって、」
土曜日。
私は恋人であるセシル先輩と久しぶりのデートです。
助手席に座りながら昨日のことを話せば、彼は少し面白そうに笑う。
「成程、それでフリオニールが…」
「え?」
「いや、僕の友人の恋人が雨に濡れて熱を出したって話を思い出してね」
それよりも、と彼は言う。
「久しぶりだからね、何処に行きたい?」
穏やかな笑顔で問われ、それだけで幸せを感じられた。
とある洒落た公園を、私達は歩いていた。
「やっぱり人が多いですね」
家族連れや友達同士、勿論カップルなんかも沢山居る。
「休日だからね。ミラベル、はぐれちゃ駄目だよ?」
子供に対するような扱いに、私は頬を膨らます。
「私は子供じゃありません」
「でも、夏祭りの時ははぐれたよね?」
くすくすと笑われ、少し悔しい。
「あ、なら!」
ピコーンと頭の中で電球が光る。
「手、つないでも良いですか?」
先輩の左腕を掴めば、彼は一瞬きょとんとして、直ぐに破顔した。
「良いね、それ」
私の右手を、大きな手が絡んで…、
「って、恋人繋ぎじゃないですか!」
しっかりと絡ませた手は、世に言う“恋人繋ぎ”で…何となく恥ずかしい。
「恋人同士だし、問題ないだろう?」
相変わらずの笑顔に何も返せない。
この人にだけは、絶対に勝てる気がしないのです。
+++
「さて、そろそろ帰らないとミラベルのご両親に怒られるね」
日が暮れ始め、セシル先輩は言った。
「まだ…、一緒に居たいです」
彼は忙しい。
次またこうして会えるのは、しばらく先だろう。
「僕もそうしたい所だけど、」
繋いだ手はそのままに、彼は私を抱き寄せた。
そして…。
「!」
私の唇に、柔らかい感触が訪れる。
「今日はコレで我慢して?」
「〜〜〜っ!!」
自分でもみるみるうちに赤面するのが分かる。
「さ、帰ろうか」
やはり相変わらずの笑顔のまま、彼は私の頭を撫でた。
手をつないでキスして
繋いだ先輩の手が少し冷たく感じられたのは、私の体温が高くされたから。
……………
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確かに恋だったちょっとフリオのとリンクしてたりします。彼女は実は傘を忘れていなかったと。