義士とkiss(U)
「お天気お姉さんめ…、もう誰も信じない」
「いや、あの曇り空で傘を持たなかったお前が悪いと思うぞ?」
現在ミラベル宅にて、俺は高熱を出した恋人の看病をしている。
かなりドキドキなシチュエーションなのだが、熱を出した理由を聞いた途端に果てしない脱力感を覚えた。
曰く…“お天気お姉さんが午後から晴れるって言うからその言葉を信じて傘を持たずに出掛けたら帰りに豪雨に降られた。タクシーに乗ろうと思ったけど既に濡れてたから迷惑だと思って帰った”らしい。
………ちなみにその日は素人でも分かる雨雲が空を覆っていた。
「連絡したら迎えに行ったのに…」
「や、ケータイ忘れちゃってさぁ」
その結果ミラベルは38度の熱を出した。
彼女は1人暮らしなので『心細いから来て』と弱った声で言われた時は普段は活発な分ときめくモノがあったが。
−−−ピピッ!
「お、下がった。37度」
電子体温計を見て、彼女は言う。
「まだ高いんだから大人しくしてろ。只でさえミラベルは平熱が低いんだから」
ミラベルから体温計を渡され温度を見てからケースにしまう。
「何か食べれそうか?消化の良い物作ってやるから…」
時刻は昼過ぎ。
普通なら腹の虫が騒ぐ頃だ。
「卵粥宜しく」
「はいはい」
食欲があることに安心しつつ、俺はキッチンへ向かった。
「ご馳走様でした」
きちんと両手を合わせて彼女は食事を終えた。
「美味しかったよ、流石フリオ」
満足げなミラベルを見ると、自分が料理上手で良かったと心底実感する。
「薬飲んだら寝ろよ。まだ熱はあるんだから」
サイドテーブルに置いたペットボトルの水で薬を飲む姿を確認して、食器を片付けようと立った………その時。
「一緒に寝よ?」
「………」
服の裾を掴んで、潤んだ瞳の上目遣いに思考停止。再起動。
「ばっ、な、何を言って…!」
風邪でもないのに顔面に熱が集まる。
「冗談だよ。うつったら嫌だし」
くすくすと笑って、でも、と続ける。
「私が寝るまで…、傍に居て?」
お願い、とこんなに可愛い彼女に言われて断れる男がいるだろうか。
答えは…否。
「あぁ、傍に居るから…ちゃんと寝ろ」
「うん…」
片付けるはずの食器を置いて、柔らかい髪を撫でれば直ぐに寝息が聞こえてきた。
「………」
安心しきった寝顔に、頬が緩む。
「まぁ、偶にはお天気お姉さんの言うこと信じても良いんじゃないか?」
こんなにも可愛いミラベルが見られるなら、なんて思考がよぎる。
「おやすみ」
額のタオルをどかして、口付ける。
俺は気恥ずかしさを誤魔化す為、食器を片付けるのだった。
内緒でキスして
……………
title:
確かに恋だった