背中ばかり抱きしめた(W+)
「………」
なんの前触れもなく、後ろから手を回してその背中に額をつける。
「またか」
苦笑気味に彼は言う。
「………」
無言で…、でもその背中から離れない私にカインは言った。
「言いたいことがあるなら、言わないと伝わらないぞ?」
(言いたいことなんて、山ほどある…)
彼は、この戦いを敗北に導いている。
−−−次の戦いの為に。
そしてその為に彼が汚れ役を引き受けているのを、日々焦りと疲労で身が休まっていないのを、私は知っている。
けど…今、その事を告げても“俺は大丈夫だ”と言って直ぐにまた何処かへと向かってしまう。
だから。
「なんでもないよ。………こうしていたいだけ」
そう言えば、貴方は少しだけ振り向いて、その場に留まってくれるから。
「そうか」
決して振り向いてはくれないのは、そんな暇もないから。
でも。
それでも。
貴方に少しでも傍に居て欲しくて……。
背中ばかり抱きしめた「…もう離せ」
嫌だ、と伝えるように腕に力を込める。
「良いから…」
本当は、子供みたいに甘えたい。
もっと困らせてしまいたい。
けど…。
大人しく腕を離して、俯く。
「!」
次の瞬間、私は目を見開く。
「大丈夫だ」
カインの腕が、私の身を抱き締める。
「…っ、」
「心配するな、俺は簡単に倒れたりしないさ」
だから、傍に居てやると。
その言葉に、私は彼を強く抱き返す。
背中からでなく、真っ直ぐに…。
……………
素敵企画『
白状者』に提出。