きみの愛に殺されてみたい(Z)
※グロ表現注意。
赤、朱、紅。
その色を表す言葉は沢山あるけれど、その色が相応しい人間はそんなに居ないと勝手に俺は思っている。
と、言うよりも彼女ほどその色が似合う人物に会ったことが無いだけだ。
初めて会った時彼女は、真っ白なドレスと真っ白なヒールで真っ黒な闇の中を駆け抜けていた。
月明かりと俺だけがその姿を見つめていると思うと、今までに感じたことのない高揚感を感じられた。
時刻は真夜中12時。
シンデレラが鐘の音を合図に城から駆け出すように、彼女もまた時計台から聴こえる鐘の音と共に駆けていた。
ただ、彼女はシンデレラではない。
物語に反するように城の中に入れば舞踏会は始まった。
踊るように戦うという言葉がこれほどしっくり来る人物は彼女の他に居るのだろうか?
選りすぐりの警備兵達を息一つ切らすことなく、ただ鮮やかに壊していく姿は目に焼き付いて離れない。
曲なんか要らなかった。
華麗なステップと肉が裂かれ血の舞う音だけでこの芸術的なまでのダンスには十分だった。
人体とは、あんなに鮮やかに捌けるほど脆かっただろうか?
彼女はきっと、その気になれば一瞬で人の命を狩れる。
けれど敢えてバラバラにするのは、その身に纏う真っ白なドレスと真っ白なヒールを完全なる赤に染めたいからだろう。
舞う鮮血を頭から浴びて血の雨の中で彼女は笑う。
それが酷く幸せ者のように見えてどこか羨ましくも思う。
−−−彼女がではなく、彼女をより美しくさせる為に命を狩られ逝く者達が。
彼女を自らの血で染め上げることが出来たなら、それを幸せと呼ばず何が幸せなのだろうか?
彼女は真っ赤な血を唇に引いた。
「死にたいの?」
「あんたにしか殺されたくないな」
真っ赤に染まる美しい彼女と自分しか居ない空間。
甘美過ぎて、今この場で彼女に生を奪われるなら後悔など残ろう筈もない。
「ふーん。君、私のこと好きなの?」
「一目惚れ、かな」
嘘ではない答えを返せば、彼女は可憐にくすくすと笑う。
「私も君みたいな色男、好きだよ」
「それは有り難いな」
「うん。だから、サヨナラ」
次の瞬間、俺は意識が無くなってもう目覚めることはないのだろう。
けれどそれでも構わない。むしろ十分に満足出来た。
最期に俺の眼に映る彼女はとても美しかったから、それで良いと思えたんだ。
……………
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hmrtmでほのぼのしたの書いた分、短編で物騒なの書きたくなる不思議。