盗賊とkiss(\)
早く帰ろうと思っている時に限って、早く帰れない。
いつも世話になってる腹黒い先輩が“明日はデートあるからこの資料まとめておいて”…と爽やかな笑顔で残していった仕事はかなり面倒だった。
いや、普段はかなり世話になってるから文句は言わない。文句は言わないけど…。
「タイミング悪いっつーの!」
荒々しくキーボードを叩き、喚く。
今日は久しぶりに恋人の仕事明けだ。
直ぐに帰ってしまうワケではないが、真っ先に出迎えたいのが彼女心ではないか。
−−−“タンタラス”と言えばかなり有名な劇団で、私の恋人であるジタンは人気舞台俳優。
公演は昨日で終了だが、帰ってくるのは今日の夕方頃。
鳴りもしないケータイのパソコンの傍に置き、ついつい視線が向く。
「………」
パタパタと指の速度を上げても、直ぐには終わらない。
(恨みますよセシル先輩…)
今頃は彼女と仲良くデートを楽しんでるであろう先輩を思い出し、うっすら殺意が湧いた。
(でも先輩の彼女可愛いんだよなー。後輩として入って来ないかな)
そんな関係のないことを考えていた時。
〜〜♪〜〜〜♪♪
「!」
一番好きな着信音は、彼からのメールが来たということ。
パソコンの手を止めてメールを見れば、“今から会いに行く”との旨の内容。
「あ〜っ、」
今すぐ作業を中断して帰りたい。
激しく帰りたい。
しかし、そんなことをしたらセシル先輩が後から怖い。………うん、怖い。
直ぐには帰れないことと、その謝罪を早業で打って即送信。
完了画面も見ずにパソコンに向き合って、姿勢悪く座っていた椅子を座り直す。
「………」
彼女の目が、鋭く光った気がした。
+++
「セシル先輩ぶっ飛ばす」
作業が終わると、すっかり日は暮れていた。
先輩への恨みを全力を込めて呟いてから、いそいそと帰る支度をする。
〜〜♪〜〜〜♪♪
「?」
今から帰るとメールしようとした時、ジタンに先を越された。
「《待て》…?」
単語1つの本文を不思議に思って口に出せば、タタタタと早い足音が聞こえた。
「ミラベルーっ!」
「?!」
勢い良く扉が開いたかと思うと、思い切り抱き締められて…体を崩した私は机に座った。
「ジタン?!」
「んー、やっと会えたぜ!」
存在を確認するような抱擁に、先ほどまでのセシル先輩に対する殺意は完全に消え去った。
ぎゅーっと抱き返して、問う。
「でも、なんで此処に?」
「会いに行くってメールしたろ?」
確かにそんなメールが来た、が。
「や、そうだけど大学に居るってなんで分かったの?」
「愛の力」
至極真面目に答えられ、吹き出す。
「なにそ…」
なにそれ、と。
言いたい言葉は、彼の口に吸い込まれた。
「此処、大学なんだけど…?」
「俺は気にならないけど?」
そう言って、彼は何度もキスを繰り返す。
「ここ数ヶ月まともに会ってないんだから、良いだろ?」
「お気が済むまでどーぞ」
照れ隠しに顔を背ければ、その首筋へと口付けられた。
「なら、遠慮なく」
そう、彼はニヤリと笑った。
気の済むまでキスして
……………
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確かに恋だった難産でした。今までの中で一番の難産。
だってどんどんネタが(泣)