旅人とkiss(X)
「ミラベルー!」
「バッ…、」
久しぶりに恋人が帰って来ると言うので楽しみに待っていれば、玄関を開けた瞬間に抱き締められた。
「んー!やっぱり気持ち良い…」
存在を確かめるみたいにきつく抱き締めてられ、頬に触れる髪がくすぐったい。
「待て待て、他に言うことは?」
ぎゅうーっと抱き締めてくるのは可愛いが、言いたいこともある。
「おう、ただいま!」
「おかえり」
成人したとは思えない可愛らしさに、思わず頬が緩んだ。
私の恋人は職業上、あちこち飛び回っている。
私は大学生なので彼について行くことは出来ないが、必ず真っ先に私の元に帰ってきてくれるので…不定期遠距離でも構わなかった。
「やっぱり此処が一番落ち着くなー」
帰宅したばかりのバッツはとにかく甘えたである。まず私から離れない。
そして、現在は膝枕中である。
柔らかい髪を撫でれば、猫のように気持ち良さげである。
「ね、今回は何処に行ってたの?」
バッツは行き先を事前に教えてくれない。
必ず帰って来てから何処に行ったのかを明かす。
「ん?今回は東の…、」
そしてその話を聞くのが、まるで冒険ものの物語のようで私は好きで仕方なかった。
+++
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
2人して作った料理を綺麗に平らげて、私は食器を下げる。
「俺も色んなとこで食べてる方だと思うけど、やっぱりミラベルのメシが一番だよなぁ」
お腹を撫でるバッツは、本当に満足そうだ。
「そりゃ、舌の肥えた彼氏様の為に日々勉強してますから」
あちこちに行ったことがあるとは、様々な料理を食べているということだ。
彼の味覚は本当に美味しいものを知っていて、本人も小器用なので料理が上手い。
元より料理好きな私としては、負けたくないではないか。
「それだと、どんどん俺の舌が肥える一方だな」
「そのクセ、バッツは細身だよね」
ソファに座るバッツの脇腹をつついても、全然ぷにっていない。
「そうかぁ?フツーだろ」
「女性はそうはいかないんですーっ」
私だって特別太っているワケではないが、油断は出来ない。
「俺は、」
憎らしげにバッツの脇腹を抓っていたら、不意に彼に持ち上げるように身を攫われた。
彼の膝を跨るように乗せられ、正面から向かい合ったと思えば、腹部を抱き締められる。
「柔らかい方が好きだけど?」
「…太れと?」
拗ねたように尋ねれば、それも良いななんて軽く言われた。
「俺は、ミラベルなら何だって良いんだよ」
そう無邪気に言って、さも自然な動作で唇を塞がれ、ソファに押し倒された。
「………」
更に何度も降り注ぐキスを、目を閉じて受け入れる。
「可愛い、ミラベル」
こんなシチュエーションでさえ、無邪気過ぎる彼の笑みは軽く詐欺だと思う。
無邪気にキスして
……………
title:
確かに恋だった