38:ケンゼンな本能






「………またか」


風呂場前の廊下で体育座りしている盗賊とエースを見て、大層残念そうにスコールは言った。


「「………」」


現在入浴中なのはミラベルで、彼らはまぁ要するに思春期ならではの過ちを犯し失敗した所である。


「(其処に居られると邪魔なんだが…)」


男2人が廊下で体育座り。
しかも頬は片方だけ赤い。今日も平手を貰ったらしい。


「ティーダ、次に入るのは俺だからな」


「譲らないッスよ」


「……………」


残念なやり取りを本気で繰り返す彼らに、獅子は深く溜め息をついた。















こんなやり取りは、初めてこの住処に来た時から始まっていた。


「あ、お風呂広い!」


ミラベルは風呂場を見つけて、嬉しそうに言った。


「確かに。これならゆったり出来るね」


「だね。弟君、泳いじゃダメだよ?」


「ミラベルは僕をなんだと思ってるワケ?」


最初は、そう無邪気で済んだ。



が。



「重大な問題が発生した」


酷く真面目な声は、珍しくジタンのものだった。


「風呂場が分かれてナイ」


それはつまり男女共用と言うか、家庭的と言うか、いや本来はそれがフツーであろうがなんとなくそれなりに充実した家だし男女別になっていそうではあったが。


「人数が多いから時間かかるね。あ、私最後でも良いよ入れれば」


「私は、直ぐのぼせちゃうからそんなにかからないし…」


コスモス家紅二点は全く危機感0だが、男性陣はそうもいかない。


「順番が大事になるッスね。

やっぱり此処はレディファーストに行くべきッスよ」


「「「………」」」


爽やかなオーラに騙されかけるが、同性には下心しか見えない。


「え?でも、ティナはともかく私なにもしてないし。

みんなの方が戦って疲れたりするでしょ」


ティーダの下心を含む提案を、善意で彼女は打ち砕いた。


「…ミラベル、男ってのはどんな時でもレディを優先する余裕があるのさ」


打ち砕かれかける彼らの望みを、キザっぽい笑みでジタンが繋げる。


「んー、でもさ…」


なおも遠慮するミラベルに、バッツは如何にも言いにくいことのように躊躇いがちに言った。


「実はな、確かに先に入らせてくれる…って気持ちは嬉しいんだがホラ、“次女の子が待ってる”って考えると妙に遠慮しちゃってゆっくり出来ないんだ」


その言葉にミラベルは、納得したようだ。


「あ、そか。ゆっくり入ってたいよね」


「そうそう。別に一番風呂じゃなくても構わないけど、せっかくなら長く入ってたいからさ」


余談だが、バッツは一番風呂派及びあまり長風呂しないタイプである。


「じゃあ、有り難く先に入らせて頂きます」


「いえいえ遠慮なさらずに」


冗談めいたやり取りの後、バッツとジタン、ティーダの視線が合わさる。

共犯者のそれと同じ視線だ。



「…ねぇ、コスモスに頼んで風呂場分けてもらえないかな?」


「いや、そんなことに手を煩わせるのも」


セシルの提案に、珍しくウォーリアは言葉を濁した。





「ミラベルの次は俺が入るからな!」


「はぁ?早い者勝ちッスよ!」


「待て待て、お前ら年功序列と言う言葉をだな…」


「(普段は年なんか気にしてないだろうが)」


騒ぐジタンとティーダ、バッツを見ながら少なくとも17よりは老けて見られがちの彼は思った。


「けど、お前もミラベルの次を狙ってるんだろ?」


「………」



ぼそっと囁いた兵士に、無言を返した。








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