37:甘い物は別腹
「で、連れて来たのか。
知っておるか?世間はそれを誘拐という」
げんなりしたミラベルと、何処か嬉々としたセフィロスを見て妖魔は言った。
「ミラベルは何故素直に攫われておるのだ。バハムートはどうした」
その問いに疲れたように彼女は答える。
「だって喚ぶ前に脅迫されるんだもん」
セフィロスの刀は素直に怖い。
彼が本気で斬ると言ったら間違いなく斬られるだろう。
「私に会いに来ない貴様が悪い」
「「………」」
暗闇の雲とミラベルの視線が合う。
(拗ねておるな)
(拗ねてるよ)
確かに視線がそう語った。
「まぁ、せっかく来たのだからな。偶にはゆっくりして行け」
「来たんじゃない。誘拐されたの。………でもゆっくりして行くよ」
妙な間はセフィロスの腕の力が強くなったからである。
拗ねた大人というのは、本当に面倒だ。
+++
「あぁ、やっと来たのですね」
「ミラベル!会いたかったよ…!」
アルティミシアとクジャに声をかけられるが、彼女の意識は別のことに向いていた。
「どうした?」
何事も無く尋ねてくるが、ミラベルは驚いていた。
(いや、どうした…って)
紅茶の上品な香りと、デザートの甘い匂いは…油断したらヨダレが出るかもしれない。
「あふたーぬーんてぃー?」
あまりにも魅惑的な空間だ。
「儂はさして興味無いのだが、そやつらが五月蝿くてな」
曰わく、皇帝とアルティミシアとクジャは生活に優雅さを求める。
結局、イミテーションを使っては結構贅沢な暮らしをしているらしい。
−−−ちなみに暗闇の雲とエクスデスは食事をしなくても問題無いが、嗜好としては嗜むとの事だ。
「………」
なんて羨ましい。
いや、コスモス側での生活に不満はないが優雅な生活に憧れるのは庶民なら仕方ない。
「食べるか?」
「良いの?!」
セフィロスの問いに、ミラベルは満面の笑みで応えた。
「………」
筆舌出来ない美味しさとは、こういったモノのことを言うのだろう。
「美味しいだろう?」
あぁ、この露出狂と意見が一致する日が来るなんて思いもしなかった。
(ていうか何でイミテーションがこんなの作れるんだろ…)
ちょっと一体欲しいとか思ってしまった。
ちなみに誘拐犯改め招待主は優雅に紅茶を飲んでいた。…絵になっている。
「セフィロス、ありがと」
唐突にそう述べると彼はカップから口を離した。
「礼なら今晩付き合っ「星よ!降り注げ!!」
私の頬に手を伸ばした時、無数の隕石が彼に直撃した。
「………」
ちなみに、何か察したらしい他の連中はそそくさと消える。
「大丈夫か?」
「クラウド…、」
いつもなら感謝する所だが、今回ばかりは違う。
何故なら…。
「信じらんない!何でデザートまで消し炭にするの酷い!」
「は?」
メテオレインに巻き込まれたのはセフィロスだけでなく、デザート達も一緒だった。
「まだ食べてないデザートもあったのに!」
涙目で訴えれば、彼は困ったように言った。
「デザートなら、フリオニールが作れるぞ。確か」
「本当に?」
一気に表情を輝いた彼女は、嬉々として住処に戻って行った。
+++
「久しぶりに有意義な時間を過ごせました」
「クリームを頬につけたミラベルも可愛かったね。次は僕が攫ってこようか…」
「いや、お主の魔法はミラベルには効かぬであろう」
怪我をする前に逃げた3人はしゃあしゃあと言ってのけた。
それにしても、と。
「かつての英雄も不憫よの」
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