36:取り扱い要注意



「………」


その日、かつては英雄と呼ばれた男は…あからさまに不機嫌だった。


「………」


どれくらい不機嫌かと言うと、あのケフカが無言になるぐらいには不機嫌オーラが全開だった。


「…どしたの?」


ピリピリと突き刺すような殺気に、いつもの人を馬鹿にした口調で喋れない。


「…が、」


「?」


地の底から呻くような声は、上手く聞き取れない。


「ミラベルが私に会いに来ない」


「………」


予想外の返事に、道化は無言を返した。


内心では色々と思うことがあったが、それを口にすると間違いなく消滅させられるだろうと考えて、無言を貫いた。





+++





ケフカはその場に居なかったから知らないが、実はこんなことがあった。


−−−−−ことのきっかけは、ジェクトの一言である。


「嬢ちゃんなら、よく俺に会いに来るぜ?」


彼にしては珍しい悪人の笑みがゴルベーザに向き、火花が散ったのは−−−この2人が息子と弟に甘いからだと言うのはさて置き−−−その言葉に過剰反応したのはかつての英雄だった。


「なんだと…?」


火の付いた導火線に焼夷弾を放り込んだのは、暗闇の雲だった。


「儂にもそれなりに会いに来るな」


何故か暗闇の雲はミラベルと親しい。

ゴルベーザやジェクトが彼女と親しくなれるのは人柄上まぁ納得も出来るが…、この妖魔が友情らしきを築けたのは不思議で仕方ない。


「……………」


セフィロスはミラベルを気に入ってる。

それはこの世界に存在する者全てに言えるが、彼のそれは執着に似ていた。


ミラベルはセフィロスが嫌いではないが、優先順位を考えると…ジェクトや暗闇の雲ほど高くない。


勝ち誇ったように笑う妖魔と、全力の殺意をその目に込める英雄の姿は間違いなく美しい。

確かに美しくはあったが…。


(((余所でやってくれ…)))


その場に居た全員の気持ちが一致した瞬間だった。





+++





−−−過去のカオス神殿。



「…あれ?」


クラウドと見回りの途中、彼女はいつの間にかはぐれてしまっていた。

探そうと思って、でも戻るのが確実かなと思って秩序の聖域に向かったハズ…なのに。


「何で?」


それは自らが方向音痴だからだと気付かないのは最早仕方ない。


「………」


バハムートを喚ぼうか、と思っていた時。


「やっと捕まえた」


「?!」


目にも止まらぬ以前の目にも映らない速さで私は抱きかかえられた。


「セフィロス!」


声の主の名を呼べば、本人は満足そうに笑う。


「いつまでも会いに来ないのでな。私から来てやった」


「…拗ねてる?」


「………」


余裕のある口調とは裏腹に、腕の力が込められていく。正直痛い。


「行くぞ」


「何処に?!言葉のキャッチボールは大事だって!」



ミラベルの言葉など気にもせず、セフィロスは歩き出した。












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