34:不可能な理由
この世界で、ミラベルが特に好きな場所が3つある。
1つはやはり秩序の聖域。もう1つはこの世界で初めて来たオーファンズ・クレイドル。
そして最後の1つは…、
「また来たのか、嬢ちゃん」
「ジェクトさんこそ」
中心の巨大な剣に背中を預ける男は、ミラベルを見て笑った。
−−−“夢の終わり”
初めて聞いた時はなんて切ない名前だろうと思った。
けど、どうしてかこの場所の雰囲気が好きでよく訪れてしまう。
それに。
「ジェクトさんが居るから、つい来ちゃうんです」
「そりゃ嬉しいね。わざわざ俺に会いたいってか?」
ニヤリと笑うのに釣られ、彼女も薄く微笑む。
「あながち外れじゃないかも。私は親離れが出来てないから」
「俺は嬢ちゃんの親じゃ……いや、なれなくもないか」
「?」
彼の後半の呟きは聞こえなくて、ミラベルは小首を傾げる。
「なんでもねぇよ。
しかし、嬢ちゃんが親離れ出来てないとは初耳だな。マザコンか?」
「なんで母親限定なんですか。それに私は多分、何年経っても親離れ出来ませんよ」
苦笑すれば、大きな手が頭に乗った。
「ま、恋しくなるのは仕方ないかも知れねぇが1人でうろちょろすんなよ。…俺はカオス側の人間だ」
「私はどっちでもないですから」
真剣な空気になったかと思ったら、次の瞬間2人で吹き出した。
「じゃ、そろそろ帰ります。
………最近はティーダも過保護になってきて、同い年なのに」
ちなみにスコールは最初から過保護なので諦めてる。
ミラベルの言葉にジェクトはくつくつと笑ってから言った。
「そりゃそーだろうな。ま・ウチの馬鹿息子を頼むわ」
「?」
彼がおかしそうに笑う意味が分からなくて、ミラベルはまた首を傾げた。
「親父に会った?!」
帰り際、毎回バハムートを使うのも申し訳ないと歩いていたらティーダとセシル、クラウドとフリオニールという組み合わせに見つかり捕獲された。
「何もされなかったッスか?!」
「自分の父親をなんだと…」
呆れたようにたしなめれば、しかしとフリオニールは言う。
「ミラベルはよくジェクトに会いに行くよな」
勿論彼らには無断で行って後から叱られるが、彼女はジェクトや暗闇の雲、セフィロス(…不本意だが)なんかとは頻繁に会っていた。
「あ、いや。なんか父親って良いなーって」
コスモス側には父親らしい存在は居ない。
ウォーリアは大黒柱的な意味で近いかもしれないが、ミラベルの父親像とは異なる。
「良いなーって、ミラベルの父親は?」
あまりにも他人事のように話す姿に、騎士は疑問を投げかける。
「私、孤児だし」
その問いの答えは、予想外の変化球で返ってきたけれど。
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