33:竜王の仕事
「おー、高ーい!」
秩序の聖域上空。
バハムートに乗ったミラベルは、すこぶるご機嫌だった。
「ねぇ、」
「なぁに?」
頬を引きつらせた少年は、竜王を見上げている少女に尋ねた。
「召喚獣…って、あんな風に使って良いの?」
「ミラベルが楽しそうだし、バハムートも文句を言わないんだから…良いんじゃないかしら」
それに、と。
「戦う為だけに生きるなんて、可哀想だわ」
自分のことのように言ったティナに、小さな騎士は、はっとさせられた。
「…だからバハムートも文句を言わずにミラベルに付き合ってるのかもね」
気持ち良さげに飛ぶ竜王を見て、そう呟いた。
召喚獣を得た彼女は最強のように思われたが、ミラベルはバハムートを戦闘に使おうという気が皆無だった。
それにはそれなりの理由があって…。
「バハムート曰わく呼び出すだけなら私にも出来るんだけど、メガフレア?とか使うと私の体力とか気力とかなんかそこら辺がガッツリ削られるんだって」
ミラベルは召喚士では無いし、魔法の類は一切使えない。
“そういった力”を持っていない為、技を使う時のリスクが高いらしい。
というワケで、彼女はかの竜王を使うのは移動手段のみという暴挙をやってのけた。
ちなみに竜王は竜王で不満はないらしいので、誰も止めはしなかった。
「ミラベルズルいッスよ!俺も乗りたいッス!」
見回りから帰って来たらしいティーダが、ミラベルを見て言った。
「しかし、竜王を移動手段扱いするとはな…」
呆れたような声は、ティーダと見回りをしていたスコールだ。
「でも、確かに乗ってみたいよね」
何だかんだ言いつつも少年らしい好奇心はある。
「ミラベルに頼んでみたら?」
その姿が弟が出来たようで可愛らしいと、ティナは微笑む。
「ミラベルー!早く降りてくるッス!俺も乗りたい!」
「(子供かお前は…)」
いや、フリオニールやジタン、セシルまでも乗りたいとは騒いでいるのだが。
「(俺も…、人のことは言えないか)」
竜王の背に乗れる機会なんてそうそうあるモノではない。
そんな誘惑に打ち勝てるのは、コスモス内ではウォーリアぐらいだろうと考えて、獅子は小さく苦笑した。
−−−その頃、上空では。
「ね、何で他の人乗せちゃ駄目なの?」
最初はゴツゴツとした背に乗るのは大変だったが、ようやくコツが掴めてきた。
《私はお前しか認めていないからな。それに…、》
「それに?」
区切られた言葉を促すと、バハムートは酷く真剣に言った。
《悪い虫から守るのも私の仕事だ》
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