32:繋がってる
「ミラベル、逃げろ!」
バハムートに攻撃したくとも、近くにミラベルが居て危ない。
クラウドの技は掠っただけで致命傷を得る。
かと言って半端な魔法では竜王を下手に刺激してしまう。
「………君、ユウナの」
しかし、ミラベルはその場から動こうとしない。
「ミラベル!早く離れるんだ!」
セシルも臨戦態勢だが、彼女はバハムートに近過ぎる。
「待て、あの娘…」
苛立ちを隠せない2人を、皇帝が制する。
「竜王と話してはないか?」
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「ユウナは、色んな生き物を使うんだね?」
召喚獣の存在を教えてくれたのは、私が知る唯一の召喚士だった。
「うん、彼らは召喚獣って言って私はその力を借りて戦ってるの」
「召喚獣…」
「みんなが居るから、私負けないよ」
そう言って彼女は笑っていた。
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「バハムートだよね。君はユウナのこと、覚えてる?」
「………」
ミラベルの問いに、彼は答えない。
「私の言葉、通じてるのかなぁ?」
あまりの反応の無さに寂しさを覚えると、ふわりと竜王が羽ばたいた。
そして首だけ伸ばすようにして、口のあたりが彼女の額に触れる。
《あの召喚士のことは覚えている》
「!」
脳に直接届くその声に、目を見開く。
《そして、あの者がどれだけお前を思っていたのかも》
「………、」
何も言えずに、黙ったまま竜王の声を聞く。
《本来私を使役するには力を示す必要がある。しかし、お前に私の攻撃は効かない。
………それにあの召喚士の最後の願いだからな》
「ユウナの…?」
《“私はもう守ってあげられないから”と。代わりに守って欲しいと》
その言葉に、はっとする。
《お前に、我が力を貸そう》
「?!」
カッ!と赤い光に目を瞑ると、召喚石だけが手のひらに残った。
「……………」
込み上げる感情を抑え、ミラベルは召喚石を大切に抱く。
「………ありがとう」
ただ、そう言うのが精一杯だった。
「凄い…、バハムートを」
「手懐けるとはな」
素直に感心しているセシルとクラウドを横目に、皇帝は言った。
「というかアレは元々は私の召喚石なんだが?」
「取り戻せると思うならやってみれば良い。今のミラベルは最強だぞ?」
魔法ダメージカット100%で天性の運動神経は素人にしては目を見張るものがあり、更にバハムートが追加。
「………」
クラウドの言う通り、最強のように思えた。
無言のままに消えた皇帝の背を見送ると、でも…とセシルが続けた。
「使いこなす前なら、取り戻せたかもね」
「それ以前に、アンタが終わらせるだろうがな」
「それはクラウドも同じだろう?」
結局の所、2人共ミラベルが可愛くて仕方がないのだ。
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