31:落とし物厳禁
「?」
それは、ある昼下がりのこと。
「なんだろ…、」
真っ赤に“何か”が光っていた。
特に危ない感じはしないし、物理攻撃は受けないだろうとミラベルはその光へと近寄って手を伸ばす。
「綺麗…」
光の収まったそれは、テニスボール程の大きさの球体だった。
「………」
これが何かは分からなくても、無性に彼女はそれが欲しくなった。
「落ちてたし、貰っても大丈夫だよね」
そう言って、ミラベルはそれを制服のポケットへとしまった。
+++
「しまった!」
「そうか」
如何にも重大なことに気付いたかのような声を出した皇帝に、下らんとばかりにセフィロスは応えた。
「“そうか”って少しは気にしろ!それより…、」
「別に訊いてなどいない。勝手に話し出すな、薄気味悪いぞ」
かなり冷たい対応の男に、苦々しく彼は言った。
「独り言だ!自意識過剰な男め」
「どちらにせよ痛いな」
「………」
何を言っても仕方ないと今更理解し、皇帝はその場を去る。
(アレはどこに行った…?)
+++
パンデモニウム最上階。
「セシル〜!クラウド〜!」
「ミラベル?」
嬉々とした様子で駆け寄ってくる姿は可愛らしく、つい頬が緩む。
「なんか綺麗な石拾った!」
「アンタも意外と子供っぽいな」
「どんな石なんだい?」
彼女も確か17のハズだが、たまに幼子みたいな無邪気さを見せる。
そんな様子を微笑ましく思っていると…、
「これ!」
「「………」」
取り出された赤い石に、2人はストップした。
勿論、その石にそんな効果があるワケではなくて。
「ミラベル…コレは、どこで?」
珍しく頬をひきつらせたセシルが問う。
「? なんか、落ちてたけど…」
自身の持つ石が何なのか分かっていないミラベルは小首を傾げている。
「クラウド、あれ何の召喚石か分かる?」
「いや流石に無理だ。モーグリやチョコボ辺りだと良いんだが…、」
「ミラベル…が分かるワケないよね」
「落ちてたって、カオスの連中のだとしたら…」
「兄さんのだとしたら楽なんだけど…」
「?」
コソコソと話し合う2人に、彼女は疑問符を浮かべている。
「貴様が持っていたのか、小娘!」
そんな時、久しぶりに聞く声が響いた。
「アイツのだったのか」
「よりによって皇帝のって…」
「あ、マティ久しぶり〜」
ゲンナリしたクラウドやセシルとは反対に、ミラベルは気軽な雰囲気だ。
「フレンドリーに呼ぶな貴様は!」
「だって皇帝ってカタイし」
「そういう問題か?!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ2人を見て、騎士は呟く。
「ミラベル、強いよね…」
「あぁ」
その呟きに兵士は素直に頷いた。
「今日こそは一撃喰らわせてやろう」
「いや、無理だって」
ちなみにミラベルが皇帝に一方的な友情を築いた理由は“攻撃喰らわないなら安全な人”だからである。
周りは最初心配していたが、結構なんやかんやで大丈夫だと分かって以来好きにさせている。
「いや…、もう遅い」
「?!」
足元に陣が現れたかと思ったら、魔術が発動し爆発する。
「ミラベル!」
魔術である以上、ミラベルに影響はない。
クラウドが叫んだ原因は皇帝の魔術ではなく………、彼女の身を赤い光が包んだからだ。
「しまった!発動させたか?!」
「皇帝、あの召喚石は…っ?!」
光はようやく収束し、大きな“何か”が彼女を包んでいるのが分かる。
「アレは…」
少なくともモーグリやチョコボと言った、可愛らしい部類の召喚獣ではないようだ。
「びっ…くりしたぁ、」
どこか間の抜けた声に、ミラベルは無事だと分かる…が。
「……………竜?」
自分を守るように翼を縮めたその存在にようやく気がつく。
「まさか、アレって」
武器を構えるセシルに倣い、クラウドも背中の大剣を外す。
「そのまさか、だな」
それは最強のドラゴンとして君臨する…、
「バハムートだ」
その名に応えるよう、竜王は翼を広げた。
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