00:先制攻撃
「そーいえば、」
彼女は今、オーファンズ・クレイドルに居た。
ウォーリアがイミテーションを倒すのを眺めながら、ふとその姿に“彼ら”を重ねる。
「此処、だったっけ」
初めてこの世界に来た時、私は結構命知らずだった。
+++
「………」
よく分からないままこの世界に来て、多分2日ぐらいは経った。
(餓死、は嫌だな…)
学校で食べるはずのお弁当は昨日で食べ終えたし、残ってるのは多少のお菓子とペットボトルのお茶ぐらいで。
(せめて誰か居ないかな)
1人は、嫌い。
弱気になってしまうから。
本来肩にかけるスクールバッグを両腕に通して背負い、立ち上がる。
「よっし!」
気合いを入れ直して歩き出す。
(大丈夫、きっと誰か…)
そう信じて、中心の円座のような場所から離れた時。
「何者だ?」
柱から、桜色の髪をした女性が現れた。
「!」
鋭い目つきと、手にしていた剣に身が竦む。
あんなにも誰かに会いたいとは思っていても、斬れ味を主張するように光る刃が…素直に怖い。
(銃刀法違反!)
本能的に身を翻して、その場から逃げる。
「待て!お前は…っ、」
追い掛けてくる足は、自分より速い。
直ぐに追いつかれてしまうと思った時。
「ライトニング?何をして…」
「?!!」
竜を思わせる鎧の人間が、進行方向に現れる。
(絶体絶命?)
だって槍持ってるもん。
フツーの人は鎧も槍も持たないよね。
絶体絶命の危機になると、人は冷静になれるらしい。
「カイン!捕まえてくれ!」
女の人の指示に、竜の人は頷いた。
「危害を加えるつもりはない。止まってくれな…」
何か言っているなんて気にしなくて。
取り敢えず、防衛本能的な何かが働いたらしい。
私は自分でも驚くぐらい華麗な動作で、背負っていたスクールバッグをおろして。
「?!」
竜の人の顔面に、全力で放り投げた。
「ほんっっっとーにゴメンナサイ!」
あの後あっさり桜色の髪の人…ライトニングに捕まって、コスモスと言う女神(?)から私を保護するよう言われ、探していた旨を聞いた。
ちなみに私のスクールバッグは竜の人ことカインの顔面にクリティカルヒットし、現在進行形で私は土下座しそうな勢いで謝罪している。
「いや、俺も油断していた…」
仮面のせいで表情は見えないし、どれぐらい被害があるのかも分からないが、直撃後は呻いたので………いや本当にゴメンナサイ。
「“あの子は弱いから一刻も早く見つけてあげて”…ねぇ?」
「カインに一撃入れられるんなら戦力になりそうじゃないか?」
そう言ったのはラグナとヴァンと名乗った人達で、気さくな感じだ。
「あの、知らなかったとは言え本当にゴメンナサイ」
「まぁ…、その何だ。私も悪かったな。
無防備な子供相手に剣なんか持ってたら逃げるに決まってる」
ライトニングは初対面こそ怖かったが、意外と話しやすい人物であった。
「本当に気にするな。俺は大丈夫だ」
初対面で顔面スクールバッグクリティカルヒットをかまされたのに、彼は大人で余計申し訳ない。
「あの、ご飯出来ましたけど…」
「ミラベルちゃん、だっけ?
2日も食べてないんでしょ?沢山食べて良いからね」
ユウナとティファと名乗った2人がひょっこりと顔を出した。
「はい!」
彼女たちにつられるように、この世界に来てから………初めて私は笑った。
+++
「ミラベル、どうした?」
イミテーションを片付けたらしいウォーリアが、私を見て首を傾げた。
「いや、今日の夕飯当番…誰だっけ?」
いきなりの質問にも、彼は普通に答える。
「フリオニールと、バッツだが」
「お、それは楽しみ」
基本的に彼らは炊事が可能だが、フリオニールとバッツは特に美味しい方だ。
「それがどうした?」
少し不思議そうな表情に、笑って答えた。
「お腹空いちゃった」
今日は早めに帰ろうと決めて、私はオーファンズ・クレイドルを後にした。
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