19:信じてる
「「!!」」
“その気配”を感じた時、彼らは真っ先にミラベルの部屋に向かった。
「ミラベル!」
オニオンナイトが叫びながら扉を開ければ、先ほどまで暇だと嘆いていた彼女がいない。
「この気配…、暗闇の雲?」
僅かに残る気配を敏感に感じ取ったティナは言った。
「どうしよう、ミラベルが…っ!」
不安げな彼女に言い聞かせるよう、少年は口を開く。
「大丈夫、暗闇の雲ならミラベルを傷つけたりしない。
それよりみんなに知らせないと」
こんな時、ミラベルがどちら側にも属してなくて良かったと思う。
それゆえに面倒にも巻き込まれるが、それゆえに守られもする。
「…うん、」
少女はしっかりと頷いて、少年と共に仲間のもとへ向かう。
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「きっもち悪ぅ…」
その頃、ミラベルは壁に手をつき口元を押さえていた。
「あの程度で体調を崩すのか。脆い生き物だな…」
「雲姉さん、元から不調だったのにトドメを指すようなことをしたのは貴女です。
闇酔いした…」
闇を使って好きなように移動出来るのは便利だと思っていたが、まさかこんなに酔うシロモノだとは…。
「やはり、別の奴に頼むべきだったか」
「この儂を使い走りにして言う台詞か?
この貸しは高くつくぞ、ゴルベーザ」
「!」
聞き覚えのある声に顔をあげれば、見慣れた甲冑姿がある。
「まぁ良い、記憶など儂には重要ではないからな。
ミラベルまた会おう」
それだけ言い残し、暗闇の雲は闇に消えた。
「?」
意味がわからずに首を傾げればゴルベーザは言う。
「彼女にはお前を連れてきてもらうよう頼んだだけだ。
………大丈夫か?」
「気分は最悪です。次から私に用がある時は呼ぶか自身が来るかにして下さい」
「すまない」
気持ち悪さが少しひいて、ミラベルはその場に座り込む。
(此処…、ガレキの塔か)
今更ながら現在地を把握する。
「それで…、カイン達の話ですか?」
「……………やはり思い出したか」
ヒントを与えたのはゴルベーザだと、カインは言っていた。
「思い出したくなかったような思い出して良かったような複雑な気持ちですけどね。
………本当に、彼らは消滅したんですか?」
「……………」
その問いに、彼は答えない。
故に、それが答えだ。
「そっ…か」
「恨むか?私を」
俯くミラベルに問いかけたのは、罪悪感からかもしれない。
「ゴルベーザさんを恨んでどーするんですか?
戦いを終わらせたかっただけなのに。
あ、実は嘘だったとかならぶん殴りますけど」
「そうか」
短い返事に、彼女は疑問を口にする。
「確認したかっただけですか?
そんなのでいちいち誘拐されたら私、監禁されちゃうんですけど………セシルに」
「いや、謝っておきたくてな。
それからセシルには私の方から言っておく」
弟の性格をわかっているのか、ゴルベーザは付け足した。
「謝らないで下さい。
悪くない人を責める趣味はないんで」
それに、と。
「私、カイン達がまだ何処かで生きてるって信じてますから」
真っ直ぐな瞳に、淀みはない。
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