18:過保護からの誘拐
そろ〜っと、私は扉を開け周りに誰もいないのを確認する。
(………よしっ!)
部屋を出ようと決心した瞬間。
「ミラベル?」
「!」
自分の名を呼ぶ声に、私は肩を震わせる。
「弟君…、どうしたの?」
引きつりそうな笑みでわざとらしく尋ねれば、彼は年齢に相応しくないため息をつく。
「ミラベルこそ、なにしてるの?」
「………脱走」
「普通とぼけるとかしない?
まぁ、その妙に素直なとこ嫌いじゃないけど」
デジョントラップのせいか記憶を思い出したせいか、私はあれ以来不調だった。
と、言っても体がだるいとか微熱があるとか風邪の初期症状みたいなもので大したことはない…が。
「ウォーリアとセシルとティナとスコール、更に今回はティーダにまで安静にしてるよう厳命されてたね」
「過保護組が増えてる〜」
唸るように言う“過保護組”とは、最初はウォーリアとセシルだけだった。
後に私の性格と扱いがわかってきたらしいティナとスコールが追加され、今回は+ティーダだ。
「これぐらい平気なのに。部屋出るのも怒られるんだよ?」
「それは確かにちょっと過保護だけど…、大人しくしてたら?」
「寝てるのに飽きた」
「………子供じゃないんだから」
自分より年下にそんなこと言われたくないが、言われる自覚はある。
「ひまー」
「なら早く体調治しなよ。今回のことは黙っててあげるからさ」
脱走しかけた、なんて聞いたら部屋にまで見張りがつきそうだ。
「はーい」
「本当に年上なの…?」
珍しく大人しく部屋に戻る彼女に、小さな騎士は呟いた。
「……………」
彼らは、本当に“彼ら”を覚えていない。
(ライト、ヴァン、ラグナ、ユウナ、カイン、ティファ…)
本当に、消えてしまったのか。
(無駄、かもね。でも…)
探しに行きたい。
一縷でも望みがあると、信じていたい。
(体調良くなるのが先かぁ…)
微熱がないと言えばセシルに計られるし、ダルさがないと言っても何故かティナに見破られる。
(……………)
ベッドに仰向けにダイブして、天井を見上げる。
眠り過ぎて、残念ながら睡魔はこない。
まだ体にダルさはあるが、以前よりはマシになっているし少し体を動かしたい。
「よっし、」
ガバッとベッドから跳ね起きた………瞬間。
「戻っておったか」
「?!」
暗闇の雲が、いきなり部屋に現れた。
「久しぶりだな、ミラベル」
「お久しぶりです、雲姉さん」
驚きはしたが、目の前の超セクシー系お姉さん(年齢不明)とは友情らしきを築いているので、怖くはない。
「いきなり闇の中から出てくるの止めてくれませんかね?
あと、敵陣のど真ん中ですよ此処」
「わかっておる。ミラベル、来い」
「へ?あ、いや…」
緩く手を引かれ、私は闇へと入って行った。
(帰ったら過保護組に監禁されそう)
そんなことを思った。
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