17:眠る君にキス
「………ミラベル、」
クリスタルワールドに残ったティーダは、唇を噛み締めていた。
どれだけの時間が経ったかは分からない、けどクラウド達はまだ戻ってこない。
「………」
どうか無事で。
頼むから。
先ほどからずっと脳内で繰り返す。
(頼む…っ!)
「ティーダ!!」
「?!!」
突然の上空からの叫びに、ティーダは顔をあげる。
「ミラベル?!」
「〜〜〜っ!!」
落下してくるミラベルの真下あたりに立ちとまり、腕を伸ばし広げる。
「うわっと!」
上手く抱きとめられたが、落下の勢いでそのまま倒される。
「ミラベル!良かった無事で…え?」
ぎゅう…っと震える腕で、彼女はティーダを抱きしめる。
−−−抱きしめるというより縋るように。
「もう、大丈夫ッスよ」
あやすように抱き返し柔らかい髪を撫でれば、いっそう近くなる距離。
「………」
華奢なその身を震わせ声もあげずに泣くミラベルを、ティーダは安心させるように包んだ。
「見つかったのは良いが…、」
「もう一周してくるか」
ミラベルを探していた2人は、そのまま来た道を引き返した。
+++
「それで、ミラベルは大丈夫なのか?」
壁に寄りかかったスコールは尋ねた。
住処に戻って、疲労からかあの後すぐに寝てしまったミラベルを部屋に寝かせる。
穏やかな寝息を立てる彼女に布団をかけて、ティーダは答える。
「怪我とかは無いらしい。ていうか…、ずっと泣かれっぱなしだった」
「…そうか」
静かに頷けば、彼は言った。
「俺…、ミラベルが泣くの初めてみた」
彼女は、簡単に泣くような人物ではない。
脆くて危うげだけど、ミラベルは強いことを彼らは知っている。
「もう、見たくない」
「………」
何を返せばいいか分からず、スコールは沈黙したままだ。
「ちょっと外行ってくる」
「あぁ」
その理由も訊かずに彼を見送ってから、スコールは眠るミラベルに近寄る。
「………」
規則正しい寝息をたてる姿に、酷く安心する。
このまま彼女の部屋にいるのもどうかと思い、スコールは1度だけ額に口付けて言った。
「おやすみ」
「………、」
踵を返そうとした時、微かな声が聞こえたような気がして彼は立ち止まる。
「…行かな…、で」
はっきりとは聞こえなくても、彼女は言う。
“行かないで”と。
(………保てよ、俺の理性)
目を瞑りそう念じて、彼はベッドに腰かけた。
「大丈夫だ」
その言葉に小さく頷いたミラベルに、彼は薄く微笑んだ。
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