15:reminiscence
「やっぱりこっちが夢、か」
真っ暗な場所に、私は居る。
どこかなんて分からないけど、重力以外は何もない場所。
(忘れちゃ…、いけなかったのに)
耐え切れない私の心は、大切な記憶に鍵をかけた。
けど、本当は忘れてはいけないから。
記憶が鍵穴から少しずつ抜け出したように、夢となって現れて。
「一番辛い場面だけ、まだ思い出してない」
見たくない。
もう2度と見たくない。
けど。
「頼まれ事、確認しなくちゃ」
予想はだいたいついていても、見なくてはならない。
思い出さなくてはならない。
−−−最後の欠片を回想しよう。
イミテーション、無限の軍勢。
次々と生まれてくる彼らの脅威を止めるには、彼らの生まれてくる場所を破壊すればいい。
当たり前の思考。
単純な結論。
でも、実行するには−−−消滅を覚悟しなくてはならない。
「お人形さんのおうち、壊しに行くの?」
か細い声は、仄かに笑みを含む。
それは泣きそうな声にとても近くて…。
「…あぁ」
頷くのさえ躊躇わせる。
「イルミネーションまで未来に任せるワケにはいかないからな。
俺たちも、出来る限りのことはしねーと」
「…ラグナ、イミテーションな」
緊張感のない間違いに、ヴァンが訂正を入れた。
「緊張感、ないね」
くすりと笑って、顔をあげる。
「ミラベル…」
ユウナが私の名前を呼ぶ。
いや、呼ぶというより呟くような響きで。
「止めたって、どーせ意味ないんでしょ?」
わかっている。
彼らにとって、自分はなんの拘束力もない存在だと。
「…すまない。
私は、お前に何もしてやれない」
−−−彼らは、ミラベルを守ることを自らの責任のように感じていた。
それは義務感というより庇護欲という方が正しい。
ライトニングの言葉に首を振って、言う。
「謝らないで。…それに、ライト達は私に色々してくれたよ」
何も知らない私に様々なことを教えてくれて。
何の力もない私を守ってくれて。
(仲間だと、言ってくれた…)
「あ」
駄目だとどれだけ強く念じても、溢れ出た雫は次から次へと頬を伝う。
「っ、…ひ…っく」
困らせたくはない…のに。
どうしても、涙は止まらない。
「ミラベル…」
ライトニングの手が私の頭を抱く。
「…っう…、」
震える指が彼女の服を握り締めて、嗚咽がもれる。
「………すまない」
ただ、その言葉を否定するように私は首を横に振った。
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