10:夢現〜episode 012〜
ザザ…ザザザ…
ザ…ザ……ザ…
『……、………』
また、あの夢?
ザ…ザ…ザザ…、ザザ…
ザーーーーーーーーーーッ
「おーい」
「?」
その声に聞き覚えがある気がして、瞼を開ける。
「こんなとこで寝てたら、風邪ひくぞ」
いや、貴方の格好の方が風邪ひきますよ…って言うか。
「だれ…?」
「? 寝ぼけてんのか?」
小首を傾げる少年の名を、私は知っている。
「“ヴァン”…?」
「そーゆーこと。こんなとこで寝てたら危ないだろ」
名前を呟いてから、違和感を覚える。
(どうして、知っているの…?)
彼が誰で、どんな人間かも分かる。
けど、どうして?
−−−−−“知っていること”が“おかしい”。
「ミラベル?体調でも悪いのか?」
俯く私に、ヴァンは心配そうな声で尋ねる。
「2人共、こんなとこに居たのか」
「“カイン”」
竜を象った鎧に身を包む騎士を、私は知っている。
「なぁカイン、ミラベルがヘンなんだ」
「ヘンってお前な…」
呆れたように呟きながらも、カインは私の傍に近寄る。
「大丈夫か、ミラベル?」
「うん…、ちょっと調子悪いだけ」
知っている。
この声も、雰囲気も。
「お前はまだこの世界に不慣れだからな。
無理はするな」
軽く私の頭に手を置いて、彼はヴァンに向き直った。
「此処らは大丈夫だったか?」
「あぁ、イミテーションも居ないみたいだしな」
その返事に、カインは少しだけ考えてから頷いた。
「…少し休憩にするか。ミラベルに無理をさせてはライトニング達に怒られそうだ」
「なら、俺が呼んでくるよ」
そのまま駆けたヴァンの背を見送ってから、私はカインに言う。
「ゴメン、気を遣わせて」
小さく謝れば、彼は苦笑される。
「別に俺も疲れていただけだ。気なんか遣ってない」
その言葉に、私は笑った。
ザザザ…ザザ…ザ…ッ!
ザザ…ザ…ザザザ…ザザザザザザッ!!
「ミラベル?」
「………、ティナ」
ソファから飛び起きれば、不安気なティナが其処にいた。
「また…、夢?」
「たぶん…、」
−−−夢じゃない。
+++
「夢?」
「大したことじゃないかも知れないけど、様子がおかしかったから」
本来敵である相手にこんな相談をするなんて、と普通なら思われそうだが。
彼女が困っているなら、何か手かがりを持っていそうな人物に尋ねたくもなる。
「具体的な内容は?」
鎧のせいで表情は分からないが、力になってくれそうだ。
「確か…、」
僕は、彼女の言葉を思い出しながら兄さんへとその話を伝えた。
+++
「あの娘は、忘れているのだな」
「思い出したくもないだろうからな」
セシルが戻ったのを見計らったかのように闇から現れたのは、暗闇の雲。
「あの娘は、浄化されない。
………思い出せないのは心理的なもの」
「だが、思い出さずにはいられないだろうな。
彼女が此処にいる“理由”だ」
その言葉に、妖魔は言う。
「耐えろよ、ミラベル。儂はお主を気に入っておる」
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