03:無自覚迷子
「でもさぁ…」
「なんだ?」
クラウドと共に聖域付近を見回りながら、私は言う。
「魔法ダメージカット100%でも物理攻撃は良くて避けるのが精一杯でしょ?」
「その話か…」
あの後、みんなの元に来てティナにメルトンを放ってもらったが(流石に怖かった。いや本当に怖かった)私は本当に魔法ダメージカット100%らしい。
「………やっぱり、全然みんなの力になってないよね。
せめて足手まといにはならないようにしたいんだけど」
みんなの力になるなんて、おこがましいかもしれない。
でも、せめて足手まといにはなりたくない。
「………別に、」
ふと、彼がこちらを振り返る。
「?」
「今までに1度たりとも、アンタを足手まといだと思ったことはない」
「………クラウド、」
足を止めれば、それに、と続けられる。
「あの皇帝に脛蹴りをかますような度胸のある奴が、足手まといになるとも思えないしな」
ふ、と薄く笑うとそのままクラウドは先に進む。
「あ、待って」
「やっと自分が方向音痴だと自覚が出来たか?」
「え?それ何の話…じゃなくて」
私方向音痴だっけ?とか思いながら、クラウドの袖を引いた。
「ありがと」
「………興味ないね」
−−−そう言って照れ隠しにそっぽを向く彼の表情を、私は知らなかった。
+++
「ただいま、ティナ」
「おかえりなさい」
聖域付近には、彼らの住処がある。
豪華とは言えないが、それなりにしっかりした造りで結構広い。
リビング的なくつろぎスペースには先客が2人いた。
「クラウドと出てたんじゃないの?」
「だから今帰ってきたんだよ。………ティナお姉ちゃんとの邪魔されたからって拗ねないの」
オニオンナイトとは名前代わりであり称号らしいが、呼びにくいので私は彼をふざけている時は“弟君”と、それ以外では名前を呼ばないという暴挙に出ている。
「………誰に聞いたの?」
「ん、ジタンが言ってた」
そう返せば、年下らしからぬ渋い顔をされた。
「ミラベルも、紅茶飲む?」
その話を聞いていなかったらしいティナに問われ………確かに飲みたくはあるが………弟君の視線に負けた。
「私はいいよ、ちょっと部屋に居るね」
別に弟君に嫌われてるわけじゃない。
ただティナ>私…なだけで。
(可愛いなぁ…)
立派な騎士とはいえ自分より幼い少年。
それが儚げなお姉さんを守るために努力する姿。
(青春、だね)
いや、私も17だけども。
そう思って自らの部屋の扉に手をかける………と。
「ミラベル。一応念のため訊くけど、この部屋誰だかわかってる?」
セシルにがしっと手首を掴まれた。
「…私?」
「……………」
いやそんな顔されても。
「君はいつになったら自分の部屋の場所を覚えるんだい?」
「? 2階の窓を左手に左から2つ目の部屋でしょ?」
「………なんで位置を即答出来るのに間違えられるのか疑問なんだけど」
はぁ、と溜め息をつかれた。
どうやら私はまた部屋を間違えかけたらしい。
「ミラベルの部屋はあっち。此処はフリオニールの部屋」
「…危なかったね」
以前フリオニールの部屋を急襲(悪気0)した時の反応は見ものだったと言うか、悪いことをしてしまったと言うか。
「いつ迷ったんだろ?真っ直ぐ来たつもりなのに」
「まぁ…、此処も分かり難い造りではあるけど」
「位置はわかってるんだけど…。まぁいいや、セシルありがとー」
「次はちゃんと自室に行くんだよ」
そのまま私はセシルが指さした方へ向かう。
(…行き先が違っただけで、迷ってはないよね)
「余計なことを…」
「君の部屋にミラベルと2人きりなんて許せないしね」
彼女が去った後、フリオニールの部屋に入ったセシルが言った。
「にしても、本当になんで間違えるんだろ?」
………どうせなら、僕の部屋に来ればいいものを。
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