02:魔法ダメージカット100%


その力に気がついたのは、確かティーダとフリオニールと共にパンデモニウムに行った時か。





「虫けら共が何の用だ?」


「皇帝?!」


切羽詰まったようなフリオニールをさておき、私はティーダに問う。


「ねぇ、呼んでもないのに勝手に現れてなんか自意識過剰なことほざいてるあのちょっとセンスを疑う人誰?」


「ミラベル…、初対面相手にキツいッスね」


こそこそと話しているのがお気に召さないのか、妙に金ピカな人は苛立ち気味に言った。


「この私を知らぬだと…?

貴様こそ何者だ?コスモスの駒ではないようだが…」


「人に名前を尋ねる時は自分からですよ」


びしっ、と指を指せばその男はくつくつと嗤う。


「この私に臆すことないとはな…、無知とは恐ろしいな」


「待て、皇帝!」


フリオニールの制止も聞かず、皇帝と呼ばれた男は杖をかざす。


(………ていうか皇帝?)


この世界にそんな制度あっただろうか、なんて呑気に考えている場合じゃない。


ふ…っ、と私との距離を縮めた皇帝陛下は冷たく言う。


「逃げ惑え」


「!!」


逃げ惑え…とか言いながらこれは反則じゃないですか?


超至近距離に現れたのは、青白い光球。


「ミラベル…ッ!」


私の名を叫んだのは誰だったろうか。


目を瞑る暇もなく、その光球は私の引っ込め損なった指に触れて…っ、



−−−ぱんっ☆



「「「「は…?」」」」


見事にこの場にいる4人の声がシンクロした。打ち合わせしたかのような揃い具合に吃驚だがその前に。


「消…えた…?」


「フレアって、あんな生ぬるかったッスか?」


可愛らしい爆発音を残し、光球は消えてしまった。

そして、私を心配したコスモス側2人より、技を放った本人が一番驚愕している。


「隙ありっ!」


私は目を見開いたままの皇帝陛下の弁慶を泣かすべく、爪先(ローファー装備)を右脛に喰らわせ、急いで2人の背に隠れる。


「ウボァっ!」


謎の奇声をあげるが、無視の方向で。


「逃げるぞ!」


フリオニールに言われるまま、私達はその場を脱した。





+++





「ミラベル!ナイスシュート!」


「私もエースになれるかな?」


逃げた先でミラベルとティーダがハイタッチを交わすのを見て、俺は言う。


「…その前に言うことは無いのか?」


「あ、その前にあの人って結局誰?カオスの人?」


「………」


その言葉に脱力しかけるが、これがミラベルの標準仕様だ。


(割と常識的だとは思うんだが…)


どこかズレてる。


「さっきのはフリオの宿敵みたいな奴で皇帝サマッスよ!」


「名前が、皇帝…?」


「あー、俺も名前までは。みんな皇帝って呼ぶし…、どうなんスか?」


いやだからそれより気になることが…とは思うが、この疑問を晴らさないと彼女は前に進まないことを俺は学びつつあった。


「………マティウスだ。多分」


「やっぱ始、じゃないか。
で、フリオニールの言いたいことは?」


「………」


なんかもうどうでも良いような気がするがそんなワケにも行かない。


「さっきの皇帝のフレア!どうやって消したんだ?」


「あ!そうそう。ミラベルって剣も魔法も使えないんスよね?」


ティーダも忘れるなよ!
確かに皇帝に脛蹴りかますなんてナイスシュートだけども!


「私さっき何もしてないよ?」


あれって元からあんな技じゃないの?と小首を傾げるのは可愛い…って俺は何を言ってるんだ。


「何もしてないって、なんかアクセサリ付けたりとかも?」


「してないけど…」


そもそも、魔法ダメージカット100%なんてアクセサリ存在しない。

俺はまだしも、ティナにとってみれば強敵じゃないか。


「フリオニール」


「なんだ?」


少し考えた後、ミラベルは俺を見て言った。


「ちょっとブリザド撃って」


ヒョイと右手をあげて、何事もなさ気に。


「何言ってんスか!危ないッスよ!」


その手を慌ててティーダが掴む。


「そうだ!さっきのは偶然かも…」


「でも!」


俺の言葉を遮って、真っ直ぐな瞳がその場を制する。


「でも、もし私に魔法が効かないなら…何かの役に立つと思う」


「……………」



はぁ、と溜め息をついたのは−−−俺。



「手加減はするが…、頼むから怪我するなよ」


「フリオニール!」


ティーダが叫ぶが、掴まれたのとは逆の手でミラベルは彼の頬を抓る。


「大丈夫だから、ね?」


「……………」


有無を言わさない雰囲気に、ティーダは渋々と手を引く。


「よし来い来い!」


「なんで乗り気なんだ…」


そう呟きながら、俺はミラベルの右手を狙う。


「………氷塊よ!」


真っ直ぐに飛ぶ氷の塊が華奢な右手を捉え、そして…っ



−−−パキンッ



それは確かに氷の割れる音。


しかし。





「私、ティナの天敵かも」





傷ひとつない彼女は、そう言って笑った。








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