小咄


;) 陸遜




じゃらり。重くて鈍い音は、私を捕らえて離さない鎖。真っ赤な手首と足首は、無駄な足掻きの結末で。


「あぁ、血が出ています」


心底心配そうな顔をして、私を抱き寄せる。その挙動の一つ一つが割れ物を扱うより酷く丁重で。やんわりと右手を取られると、薄く滲む血を一瞬の躊躇いもなく舐められた。


「駄目ですよ。貴女の肌は弱いのですから」


そっと包む手は優しくて、その声音も偽りではないのだけど。


「自分を傷つけるのは止めて下さい」


「…出して、此処から」


渇いた喉は、上手く言葉を紡げない。掠れた声に気を遣ったのか、彼は近くの台にある水を口に含んで私の口に移す。


「…っ、」


流れ込む液体と、絡む舌が酸素を奪う。呼吸困難になるかと思う寸前で、ようやく唇が離れ、口から零れた水が舐めとられる。


「駄目ですよ、貴女は私の全てなんですから」


にっこりとした笑みは綺麗で、そこには悪意など微塵も無い。


「何かあったら、私は死んでしまいます」


本当に優しい。けれど、故に残酷なのだ。彼は、私の欲しいものは…自由を除いたらなんだってくれる。嫌がることは…この監禁以外は何もしない。ただ、奪うでも壊すでもなく私を捕らえたまま離そうとしない。


「陸遜…」


「愛しています」


振り解けるぐらいの力で抱き締められているのに。きっと、いや絶対にこの腕からは逃れられない。

じゃらりと音を立てる鎖なんか、本当は必要無い。これがあろうが無かろうが私はどうせ逃げられない。