再び永良は鬼刀を振るう。


何百と戦を共にしたその一本刀は、最早己の右腕と化している。
吸った生き血も数知れず。


「懐かしいな角都よ…よくお前ともこうやって幾度となく争ったものだ」


「…貴様は俺を頑固者だと言うが、お前とて相当に強情だ」

鬼刀が角都目掛けて振り下ろされる。


─ヒュッ!


─ギィィン!



「お互い、 悲しい程に変わらんな」


角度を変えて刄が唸る。


地怨虞─!

無数の触手が四方八方に飛び散る。


鬼刀で断ち払いながら永良は印を結ぶ。

土遁─虎檻門

地が裂け猛虎の如く口を開けた岩石が襲い来る。


飲まれる寸前に角都の背中が蠢き面が飛び出す。


雷遁─偽暗



鋭利な雷(いかずち)が一瞬にして虎岩と永良の身体を貫く。…が、次の瞬間永良が岩の塊に変貌。

変わり身の間に角都の足元から地を破り足首を拘束。

刹那、切り離された手首が触手によって操られ永良の首を絞める。
再び鬼刀で切断、 互いに一旦距離を取る。







「やはり動きは変わらんようだな……流石だ」

「貴様もな………」


尚も降り止まぬ雨が二人の間を別つ。


幾重にも重なる雲が地上への光を遮断し始める。視界が暗い。





「……ずっと気掛かりだったことがある」


うごうごと重厚な雰囲気で触手を従え角都が問う。


「貴様が里を抜けたのは 俺が原因なのか…」



大きな葉の上に ボツボツッ… と雫の塊が落ちた。




「言った筈だ、お前が知る必要は無い。」




拒絶。 確かな溝。



「……それにその賞金額─ 尋常では無い。里を抜けた後は何処にいた」




引く気の無いらしい角都に、暫くして永良はため息をついた。




「………高額の賞金首となった俺は、追っ手から逃れる為 定住せず各国を転々としていた。だが十年が過ぎた頃、謎の病にかかりこの里で倒れ── ここで二人の兄妹に命を救われたのだ─ 彼等は里長と深く繋がりのある一族でな……此処は度重なる他国からの侵略に兵力を削られ 抵抗力も乏しい国だった為に、政治的に不安定な土地だった。……俺はその里長から草隠れの治安を守る代わりに定住を黙認するとの条件を与えられ、其処に潜伏する事を許された……」



ゴゴォン… と空が轟き出した。


益々 視界が暗くなる。



「…………」



何を思ってか、角都は黙って聞いている。



「身を置かせてもらい里の番人をする。良好な関係だった。あの日まではな…………」


永良の表情が重く強張る。



あの日。

一体その日に何があったというのか。




「俺は長年その兄妹と過ごし月日を重ね互いの事を知り、忍術も教えた。幼かった兄も中忍になり…そんな矢先の事だった。妹のマヤが拉致されたのだ。彼女はよく友人の元へと出掛けることが多かった。後から知った事だが、その友人というのが 人柱力だった─。そして俺は知った。その人柱力の情報を集めている組織があることを……マヤは其奴等に連れ去られたことを……」



空気が重くのし掛かる。

天空の轟音は止まない。




「一足先に飛び出したマラを追い事態を知った俺もすぐに捜索した。………見つけた時には、───マヤは殺され マラは事切れる寸前だった。死の間際、妹の命を救うようにと彼は一族の秘術を俺に託した……その一族に伝わる禁術だ…。マヤは蘇生した。しかし………兄は、死んだ。 俺は、この犯人に検討が付いていた。マラの残した情報とも一致した。それは── 





  お前だ、角都─  」











永良の角都を見る目が鋭く光る。






「…………、……」



その目を受け止め尚も口を開かぬ角都。



「マラが死ぬ数年前に、貴様が"暁"に加わったという事実は聞いていた。その目的も─。……いいか、  俺は尾獣狩りを 絶対に赦さん… それが角都─お前なら尚更だ…!」




鬼刀が水平に襲い来る。

角都は後方へ飛び退く。



蒸遁─炎滝網縛!



緑眼が見開かれる。

これは───

「マズイ……」





摂氏一千度を超える水蒸気の塊を生み出すこの術を買われ、当時永良は常に先鋭部隊に充てられていた。

その脅威を角都は誰よりも知っている。


全身を硬化させたところで意味など無い。



風遁─圧害!


緊急離脱させた心臓を核に動く風遁の巨体が、恐るべき風圧で眼前の攻撃を弾き返す。



しかしもう一方から新たに術が降って来る。


「─ぐっ、ぅぅ……!」



不覚──、角都は飛び退きながら右肩を抑え片膝を付く。



手を離すとそこは無惨に焼け爛れ、シュウゥ と蒸気が立ち上っていた。


「角都……貴様なら解る筈だ。本質を捩じ伏せられる苦痛を…理不尽な圧力を…!お前がしていることと同じだ!人柱力とは言え中身は生きた人間……、例え里と人柱の間に拭えぬ傷があろうと貴様等如き浅き賊共が手を出して良い問題では無い…!在るべき姿を その里の真実をねじ曲げてはいけない!」









(永、良……マヤを、助けてやってくれ………我々一族に伝わる秘術だ…)



(草木の生命エネルギーを吸い上げ…対象の生命力へと変換する術、だ……辺りの草木は枯れてしまうけど…使用を繰り返せば、寿命も延ばせる………)



   "樹命吸魂─"





(兄さま…マヤは一族最後の生き残りとして、立派な忍になってみせます…)


(友達いつも言ってた…"嫌われたって 利用されたって、この力は里に必要なものなんだ" って。"善悪含めて 里が背負う運命だから、自分は逃げない" って─だからマヤはアイツに何も教えなかった )





─奴等の成さんとしている事は決して赦されない

 そして必ず マラの仇を討つ─






先ずは貴様等"暁"に太刀打ちできる兵力を揃えるところから始めよう。






 待っていろ、角都よ─










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2012.8.24
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