※巡音様リクエスト

※蠍泥←鳶

※「我家」のその後
 時間軸の矛盾以外は原作寄り










    『錯誤』



地を蹴り風を切る。
ザザッ ザザッ と木々を跳躍する度に枝葉の擦れる音が鳴る。


辺りはすっかり闇に飲まれ、深い森は一層夜を濃くしている。
さっきよりも大木が増えてきた。目的地も近い。

自分を追う気配が無いことを確認すると、一際デカイ大樹の目の前で止まる。


「…解」



すると大樹が周りの景色と共に急に大きく歪み、捩れの中心に小さな穴が空く。
そこを抜け、ひんやりとした岩壁の空間に降り立つ。所々に施された蝋燭の灯りと、やけに反響する足音に静寂を感じた。

薄暗い廊下を進む。少し先から蝋燭とは違う灯りが漏れている。簡素な扉を開けた。




「あぁ、お帰りなさい、デイダラ」

「よう!お疲れ!」


所謂リビング的空間から光と声を受けた。


「デイダラか。任務ご苦労だったな。後で報告書を纏めて俺の部屋に持って来い」
「三日で戻るとは随分と早い帰還だが、怪我はないか?」


ペインの隣に腰掛けていた小南が問う。


「ああ、余裕だ。アイツに合わせなくてもいいから移動はあっという間だぜ、うん」


そこに本人がいないのを確認してからデイダラは答えた。


「あーーー!デイダラ先輩帰ってたんですかぁ?んもぅボクずっと待ってたんスよ〜〜?ささ、熱い抱擁を交わしましょう、何なら今からボクの部屋来ま「トビうぜぇ消え失せろうん」


南無、ちーん




「さ、これで皆さんお揃いですね。デイダラも帰ってきたので久々に全員で夕食が摂れますから…席に座って下さい」


念願のオープンキッチンが余程気に入っているのか、恐ろしく似合わないピンクのエプロンをはためかせて鬼鮫はご機嫌な様子で鍋をテーブルに置いた。


「おでん…!!」


真っ先に食い付いたのは勿論デイダラ。


「イタチさんが、今夜あたりデイダラが帰ってくると言っていたので」

何とも優しい笑みでデイダラに取り皿を渡しながら支度をする鬼鮫。


ちらと斜め前に座るイタチを見ると黒い瞳と目が合った。


ちっ、いけすかねぇ奴…


デイダラはじろりと睨んでからまたおでんに目を移した。 暖かい飯を摂るのは久々だった。任務前も鬼鮫達がいなかったので、それぞれ単独で食事を摂っていたから実に一週間ぶりだ。


改めてデイダラは周りを見渡した。


スウィートとは程遠いが、先程の廊下とは違いこの空間は立派なリビングと呼べる代物になっている。


それに各々自室もあてがわれ、プライバシーも尊重されている。こうして出来うる限りのメンバーで集まり食事を摂ることも、今では違和感無く受け入れられている。あの角都ですらこの場にいる。



「角都さん、いい加減金勘定はやめて貴方もこちらに座って下さい。おでんなくなっても良いんですか?」


「やむを得ん。おでんが無くなるのは困る」


「あれ、お前が金より優先するなんて珍しいな!!遂に更年期障害かぁ?」


決して心の広く無い角都に対しての発言に全員固唾を飲んだが、惨劇は訪れなかった。


「黙れ飛段…。俺とて腹は減る」



なんだかんだでこの雰囲気が嫌いではないのだろう。
年寄りとはそういうものだ。

そうして食の必要な者達の団欒(だんらん)とは呼び難い一時が過ぎていく。


「あ!デイダラ先輩やだな〜残すなんて。ボクが食べてあげますよ〜☆」

「あぁっ!!トビてめぇそれ──」

ぱく。


「んふふ〜こんなに美味しいのに♪ついでにデイダラ先輩も食べちゃおうかな〜☆☆」

空気を読まず体をくねらせる男が一人。


「………てめぇおいこらトビ、オイラの好物知ってるか…?」

どす黒いオーラを禍々しく放つデイダラに後輩は言う。

「え?粘土でしょ?」

その瞬間、緊急拘束されたデイダラによってアジトの壊滅は免れた。



「トビ…!! ぶっ殺す…!!!お前は10回死ね!つか取り皿にある時点でわかるだろ!!オイラは好きな物は最後に取っとくタイプだ!!!わざとだろ、マジ殺す…!!!」


「すすすすスミマセン…!!そんな怒らないで先輩!!ほら、この竹輪あげますから!あ、この蒟蒻も!はい、あーんして☆」

「サブキャラばっかじゃねぇか!!死ねぇ!」

潔く注がれた油に、デイダラは見事に発火した。


「ほらデイダラ、私ので良ければあげますから。機嫌直して下さい。ばくだん、お好きでしょう?」

鬼鮫は鍋の中から新たにばくだんを取り出した。


「えっ!いいのか!!??でも鬼鮫のが…」

「私はそこまでお腹すいていないですし。デイダラの為におでんにしたんですから…」

デイダラはそんな鬼鮫に目を輝かせて感謝し、がぶりと大好物を頬張った。







─自分達は犯罪者である筈なのに、こんなアットホームな感じでいいのか?

危機感が足りないのではないか?


そんな疑問がいつも浮かぶが、任務に支障をきたしている訳では無いのでよしとしよう。これが新しい犯罪者の形だ。




「それにしても、食事のいらない身体というのは便利ですよねぇ…」

何気なく話題が変わった。

「確かに。時間と金の節約になるからな」

「でも、こうやって皆で食べるから美味しいのではないか?」

「小南の言う通りだ。食べる物があるだけで感謝しなくてはならない」

リーダーがしみじみと語る。


「でもいいよなぁ!腹が減って寝れないとか無いんだろ?あ、睡眠もいらねぇのか!欲の無い身体ってのは楽だよなぁ」


飛段がやかましく喋る。


「………」


「どうした、デイダラ」

先程から黙っていたイタチが口を開いた。


「っ、…何でもねぇよ!鬼鮫、おでんうまっかったぞ、うん!」取り皿の中の物を一気に掻き込んで、デイダラは足早にリビングから出た。

「デイダラ先輩!?」

トビはその場で立ち上がりデイダラを呼び止めた。

「んぁ?どうしたんだアイツ」

「さぁ…私達、何か気に障る事言いましたかね?」





鳶「………」













デイダラはまた薄暗い廊下を進む。


さっきまでの賑やかな雰囲気から一変して物悲しい空気に包まれる。


別に自分は怒っている訳では無かった。
ただ何となく、あの会話の中にいたくなかった。ただそれだけ。


自室を通り越し最奥の扉の前で一旦止まる。

息を吸った。






「旦那ー、入っていいか、うん?」





すると中から小さく返事が聞こえた。



『……あぁ』







引戸を引き足を踏み入れる。

室内は廊下と変わらぬ程の薄暗さで、部屋の真ん中にいる人物の背中が、手元の蝋燭のせいで翳り ゆらゆらと揺れていた。



『何か用か…』


背を向けたまま言葉を投げられた。


「いや、用ってもんでもねぇけど…帰ってきたから一応、報告しとこうと思ってよ、うん」

すると奴は喉を鳴らして笑う。 『クク…報告する相手が違うだろ。さっさと書類書いてリーダーんとこ持ってけ…』

「んなこたぁわかってるっての!…ただ、先に旦那に顔出そうと思っただけだ、うん」

ムキになって言う。


『てめぇが俺の顔見に来たんじゃねぇのか…たった三日で恋しくなったかよ、餓鬼…』


くつくつと笑いながら振り向いた陰惨な瞳と目が合う。


 どくん、 と心臓が脈打った。



『何だ、その顔は…こっちへ来い』



その言葉に吸い寄せられるように、デイダラはサソリの隣に座った。


俯き加減に伏せられた睫毛。

その中の真剣な眼差しは手元の傀儡に向けられている。

パーツを繋げる心地よい音と綺麗な横顔を感じながらデイダラは静かにそこに座っていた。



すると、サソリの茶色い瞳がデイダラに向けられる。

デイダラも高鳴る鼓動を抑えそれに応える。




『やけに早かったな…ククッ、俺に合わせなくていいから楽だろ…』


橙色に揺れるサソリの姿がデイダラの心を掻き乱す。


「違ぇよ馬鹿…。早く、旦那に会いたかっただけだ…うん」

口にしたのが恥ずかしくて視線を下にずらす。

同時に、さっきのメンバーの会話を思い出し眉間に皺がよる。


『ククク、全くお前は……。何を言われたのかは知らねぇが、他人の言葉をいちいち気にしてたらこの世界じゃ生きてけねぇぞ…己の信ずる路を往く─てめぇだってそうだろ』


儚げに でも力強くデイダラに問いかける。

『もっとも、お前がそんな顔する原因はいつも決まってるがな…』

ふん、と鼻で笑いサソリは工具を床に置いた。




『安心しろ。俺は望んでこの身体になった。後悔なんざしねぇし、むしろオススメだ。"生"のしがらみから離脱する事こそが俺の望みだ。それを他人がどう思うのかなんて知ったこっちゃねぇんだよ。』


サソリはゆっくりと刻むようにデイダラに語りかけた。

不安気に寄せられた眉間と悲し気な目が、蝋燭の炎と共に揺れる。

「そうだな…うん…」


デイダラはそう言って目を伏せた。

その瞬間、外套の立ち襟を掴まれ相手の顔の前まで引っ張られた。

『そんな顔するな…俺はこの身体で永遠に在り続ける。お前を置いていくことは無い。だから──』



─だから、笑ってくれ。




サソリの消えそうな程儚い顔がデイダラに近づく。


デイダラはその睫毛が伏せられるのを見て己の瞼をゆっくり閉じた。




聞こえるのは蝋の熔ける音だけ。


ゆらゆらと揺れる二人の影が重なっ───


「あーーー!デイダラ先輩こんなとこにいたーーー!!ボク先輩の部屋でずっと待ってたのに!─って、あれれ?二人ともそんなにくっついて何やってんスか?」



KYKTが現れた。




「…………トビ、、てめぇはさっきから…………」


表情を翳らせ、全身をわなわなと震わせるデイダラには確かな殺意が滲み出ている。


サソリはつまらない物でも見るかのように仮面男を一瞥する。



「あれ、もしかしてボクお邪魔でした?な訳無いっスよね、あはは!!ほらもう先輩、こんな所で油売ってないで早くリーダーに報告書提出してきて下さいよ!そしたらたっぷりボクの部屋で可愛がってあげますから☆☆エヘへ」


言うや否や、ずんずんと部屋の真ん中に進み出てデイダラの手を引く。


「っんだよ…!!お前キメェしっ、触んじゃねぇ、うん!」


掴まれた腕をブンブンと上下に振るも、力では叶わない。キッ と睨み上げるが勢い良く腕を引かれ、そのままデイダラは立ち上がらされた。するとその直後違和感。
デイダラのもう片方の腕がサソリに固定されている。



『……おい、台風の目。俺はいつお前が部屋に入る事を許可した…』


穏やかな物言いとは裏腹に、サソリの瞳孔は開ききっていた。


「えぇ!?やだなぁもぅ!デイダラ先輩連れたらすぐ出ていきますから!だから手、離して下さいよ!悪いですけど先輩はボクのなんで☆」


敬語の意味が無い程に相手を挑発するトビ。サソリの半開きの目が据わっている。


「おいトビィ!テメー何訳わかんねぇ事言ってんだコノヤロー!!オイラがいつお前のもんになったよ!」


「そんなにギャンギャン喘がないで下さいよ、興奮します」

「んだとゴルアァ!!」


どうせ自分など見てはくれないのだ。


彼の視線の先には、いつだってあの赤髪─



だが、彼を想う自分の気持ちに嘘は付けない。




「ボクという存在がありながらこんな人形と浮気なんて…!!先輩ったらお仕置きしちゃうぞ☆」


『………てめぇ殺されてぇようだな。そこの流し台で綺麗に中身空っぽにしてやろうか』


水道設備が整ったお陰で今まで以上に自室に閉じ籠っているサソリ。
綺麗に掃除されてはいるが、異様な血生臭さは放置されたままだ。


「冗談キツイっスねー、あはは!ボクなんか傀儡にしたって何のメリットもないですよ!ちょっとイケメンだからってイイ気にならないで下さい。それに、貴方にだけは操られたくな─『ソォラア!!』


デイダラを介してチャクラ糸を繋げられたトビは、勢い良く流し台に放り込まれた。



『いい度胸してんじゃねぇか。デイダラはこの顔に惚れてんだ……悔しいのは解るぜ。─だが相手が悪かったな。人のもんに手ぇ出せばどうなるか─教えてやるよ…』


「えっ…!?」



そして暁ホームに断末魔の叫びが響き渡った。










「何ですかね、今の叫び声は」

「大方トビがデイダラにちょっかいをかけてサソリに粛正されたのだろう…くだらん」


「ゲハハ!アイツってそんなに嫉妬深いのかぁ?」

「まったく、相変わらずな奴らね」


「そんな事よりデイダラの報告書はまだか…!」

鼬「………ウルトラナンセンス!!!」
















「旦那…さっきの続き、してくれよ…うん」

サソリは気絶したトビの面を外そうとしながら背後に返事をする。



『今日はえらく甘えん坊じゃねぇか…ククッ、やっぱ寂しかったんだろ』


そう言い振り返ると、物欲しそうな顔して強がっているデイダラに サソリの核が跳ねた。

モジモジと視線をさ迷わせ、寄せられた眉間と色付いた頬がアンバランスだが、サソリの心を揺さぶるには充分だった。


『……ったく、』



手にかけた面を離し、サソリはデイダラに近づく。


その瞳は期待を滲ませ、微かな欲を孕んでいる。


『いつもは強気なくせして。そんな眼で誘惑するのは俺だけにしろよ、色餓鬼…』


添えた親指でデイダラの下唇を下げ、その隙間にサソリは自身の口を押し付けた。
















あまりの恐怖にどうやら自分は意識を失ったらしい。


最後に見た奴の笑みは天使のように残酷だった。そう、天使のように。

ぞくりと背筋が震えて目を覚ますと、何やら聞こえてきた。



──んっ、ンン…!


同時に、チュ、チュ、という音と吐息。



──何してんだお前ら、



『………っハァ、おい、そんなにがっつくな………ンッ』



見ると貪るように互いの唇を味わっている二人が立っている。



「──ちょっっ!!!何やってんスかデイダラ先輩!!??離れて下さいよ〜〜〜!!!ダメ、絶対!」


 何故、 お前はそいつなんだ。

 いつ俺を見てくれる。



「うるせぇなトビ!あっち行ってろ、うん!」


 それでも俺は、お前を諦めきれないのか。


「先輩とチューするのはボクです!」




ジタバタと流し台から出ようともがいていたら。


『トビ……。そんなにデイダラが好きなら仕方ねぇ。特別に許可してやる…』



「え?」


静かに言ったサソリは ぱちん、ぱちんとデイダラの外套の前を開け始めた。


「え!?ちょ、旦那…!?」

『こいつの喘ぎ声とイキ顔は特別やべぇからな。何なら見てくか…?』


にやりと口元は笑っているが───

トビは後退った。


その目だけで殺されると思った。


「だだだだ大丈夫っス…!!遠慮しまぁぁぁぁす!!失礼しましたーーー!」


身の危険を感じたトビは、お得意のくねらせも忘れてスタコラサッサと逃げて行った。














台風男が去ったお陰で再び部屋に静けさが戻った。

『さて、邪魔な奴も消えたことだし…お前もさっさと報告書出してこい』



そう言ってサソリは足元の傀儡達に目を向けた。

「え………、続きしてくれねぇのか、うん?」


不満気に問いかけるデイダラにサソリは視線を戻す。


『あ?ちゃんとしただろうが…』



するとまたデイダラは困ったように頬を染め呟く。


「そうじゃなくて…その…その後の………」



 全くいい加減にしろよ。

俺がその顔に弱いの知っててわざとかよ。タチの悪い餓鬼んちょだ…



キュウゥと締め付けられる核をため息で誤魔化し、サソリはデイダラの外套をバサリ、と落とした。


『ククッ…今日はやけにねだるじゃねぇか。てめぇらしくねぇな、こんな甘ったれだったか』


首筋、鎖骨と痕を付けていく。



「んっ、るせぇ…。旦那…オイラ飯の時間、んっ…、これから五分にするからな…うん」


『何言ってんだ、いきなり』


どんどんとサソリの印が増えていく毎に身体が正直に反応する。


「あんたを一人で待たせねぇっつーことだ、うん」


『………ふん、別に俺はてめぇの飯の時間なんて興味ねぇよ。寧ろ一人の方が作業が捗る…ククッ、てめぇはいちいち煩ぇからな』



「……このひねくれ者」

そう言ってサソリは薄ら笑みを浮かべ、デイダラをベッドに押し倒した。

















「またデイダラにフラれたみたいだね」
「オ前モ懲リナイ奴ダナ…」

マイホーム近隣の大樹の枝の上。


感慨に耽る一人の男の後ろから突如として話しかける影が一つ。



「………まぁいい。今は好きにさせてやる。だが───、いずれ必ず俺のものにしてみせる……覚えてろよ、サソリ…」


その男の片眼は、奴の髪と同じく 深く鮮やかな赤に染まっていた。














END

2012.8.17
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