※シキ様リクエスト

※原作沿い

※芸術家の空模様のとある出来事










    『本音』



──ガシャ!…


暗いアジトの奥の一室から、何かが壊れる音がした。



『チィ……』


その部屋の主は苛立たし気に造りかけの傀儡の足を投げ捨てた後、盛大に舌打ちをした。


(あの餓鬼…うぜぇ)


前からちょこまかと鬱陶しい奴だったが、最近は何故かやたらと高圧的で扱いが面倒くさい。


さっきも明日の任務の件を軽く話しただけで得意気に喚きだしたので一蹴したら、急に物凄い剣幕で噛み付いてきた。



腹が立ったのでヒルコの尾で突き飛ばしてやったら、訳のわからん言葉を叫んでアジトを出て行った。


つくづく意味不明な野郎だ─。

どうせ頭が冷えたら勝手に戻って来る。

いちいち苛立つのも無駄だと判断し、サソリは明日の為に作った毒と新作の傀儡を準備するべく、投げた足を拾いに行った。







心地よい夜風に髪を遊ばれデイダラは目を覚ました。自分はいつの間に眠っていたのだろうか。

辺りを見ると、一面風に靡いた柔らかなカスミ草が優しい月明かりに照らされていた。

白く光るそれらは、まるで闇夜に浮かぶ月と同じように 地平線と対照に儚げに輝いている。



「綺麗だな…うん…」


覚醒したばかりの力の抜けた体を起こし、デイダラは立ち上がった。


「明日も任務あるからな。そろそろ戻るか…うん」


アジトの位置を確認すると、鳥を作りそのまま夜空へと羽ばたいた。













翌朝。

出発の時間になってもデイダラは集合場所に来なかった。


昨日深夜、あいつがアジトに戻ってきた気配は感じた。

部屋にいることは確かだ。

そしてこれまで"寝坊"という理由での遅刻は無かった。


『……もう待てねぇ』


大方昨日のことを根に持ち自棄でも起こしているのだろう。

こっちはいい迷惑だ。

(ふん、どうせアイツがいてもいなくても変わりゃしねぇ…寧ろ清々する)


サソリは一度廊下の奥を睨み付けてから、アジトの出口を出ようとした。


すると。

「おい、デイダラはどうした…」


後ろから声がしたので振り返ると角都が立っていた。


『あ?知るか、アイツが来ないだけだ。俺は一人で行く』

まるで興味の無い感じでサソリは答えた。


「そうではない。デイダラの様子がおかしい理由を聞いているのだ…お前が何かしたのか」


何とも奇妙な返答が返ってきた。

『おかしいだと?』



サソリはヒルコの中で眉をしかめ言葉の意味を噛み砕く。


同時に目の前の頭巾男も目を細めた。


既に角都がデイダラの異変に気付いているということは、昨日の腹いせに部屋で閉じ籠っている訳では無さそうだ。


だがそんなことは自分には関係ない。

ふん、と鼻を鳴らしサソリは再び体を出口の方へ向けた。


「いいのか?奴はどうやら記憶障害を引き起こしているようだ。自分の相方はイタチだと言い張っている。朝から"何故イタチがいないのか"と騒いでいるが、おそらくお前が今から向かう任務に行くつもりなのだろう」



………アイツは馬鹿なのか。 まぁいい。

『ククク…何だか知らねぇがアイツがイタチを相方だと思ってんなら好都合だ…俺にはコンビなんてもんは不要だ』

そう言い捨て、角都の言葉も待たずにサソリは森の中へと消えて行った。








暫く乾いた山道を進む。這うように移動する己のスピードは決して速いとは言えないが、途中で休憩の必要が無い分ノンストップで目的地に向かえる。特に今日はアイツがいないので計算通りに着きそうだ。


すると。左方の木々の間から鮮やかな白の塊が目に入った。

草木を掻き分けその空間へ抜けるとそこは─ 青空を背景に一面のカスミ草が風に煽られて揺れていた。


ふと、一部陰っている部分が目に止まりサソリはそこへ近づく。人一人が寝転がったようにカスミ草が倒れていた。


『……こいつは』


そこには見覚えのある物体が落ちていた。

デイダラがいつも左目に付けているスコープ。


そして背後には切り立った崖。



どうやらアイツはあの崖から足を踏み外し、ここへ転がりこんで頭を打ち、記憶を飛ばしたようだ。


何て間抜けな野郎だ。それでも忍か。


更に呆れ果てたサソリは 一刻も早く目的地に向かおうと思考を切り替え、その場を立ち去ろうとした─が、


『ん?……アイツの髪…?』


スコープの少し離れたとこに見慣れた金色の髪が散らばっていた。
その切り口は落ちた衝撃で抜けたものではなく、明らかに鋭い刃物で切断されたものだった。


そしてサソリは次の瞬間、嫌な予感を感じた。

デイダラの髪の傍に 同じくクナイで掠め斬られたような黒髪が散っていた。


一体此処で何があったというのだ。





敵の襲撃だとしたら何故デイダラは生きて帰ってきた。



それに、

─アイツらしくねぇ

よく考えたらそんな簡単に記憶を喪失できる程、奴への執念は軽いものでは無かった筈だ。


その為の左目。
落としていくのは不自然だ。


どうにも胸のざわつきが治まらないサソリはスコープを拾うと 元来た道をゆっくりと戻って行った。












バンッ──!!

誰かが両手で机を叩き付けた音がアジトに響き渡った。


「だから!おかしいのはアンタらだ!誰だよその"サソリ"ってのは…うん」


「では聞くが、貴様はいつからイタチとコンビを組んでいる。その記憶はあるのか」


「それ、はっ…!!えっと、その、」


「それこそが貴様の記憶が改竄された何よりの証拠だ」


「でもよぉ、もしそうだとしても誰が何の為にそんなことすんだよ」


今まで二人のやりとりを眺めていた飛段が口を開く。

「それは今のところわからん。今は記憶障害だけのようだが、何らかの術を受けているとなると今後、我々にも危険が及ぶ可能性もある」


「それって、操られて俺らを襲うかもってことか?」

「それだけではない。脳を乗っ取られれば暁の情報も抜き取られるという事だ。つまり、本人の意思とは関係なく俺達にとっては敵になるという訳だ」


角都は無表情に何を言わんとしているかをデイダラに伝えた。

「──なっ!!いい加減にしろよお前ら!!オイラは何ともねぇって言ってんだろうが、うん!?」


『うるせぇぞ、餓鬼…』



いつの間にか部屋の入り口にサソリが佇んでいた。


ギロリと三人を睨んでから、ズルズルと部屋の真ん中へと移動する。


「誰だよアンタ…うん?」


警戒しつつも何処か好奇に満ちた目で力強くサソリを見る。


「こいつが貴様の二人一組の相方だ」


するとデイダラは寄せていた眉をひょいと上に上げ、何とも間抜け面で答えた。

「え、こいつがサソリ…?」

刹那、鋭いヒルコの尾がデイダラ目掛けて襲いかかる。 ─キン!


空気が裂け、一瞬呼吸が止まる。



「っぶねぇな!いきなり何しやがんだテメー!!」


(ほぅ、記憶は無くても身体は憶えているようだな)

角都はデイダラの反射姿でそう確認した。

『おい糞餓鬼…次俺を呼び捨てにしやがったら確実に命はねぇと思え…』


ヒルコの顔は翳って見えないが、怒気を孕んだ尾がゆらゆらと空中で揺れている。


「はぁっ!?アンタオイラの相方なんだろ!?名前くらい呼ぶだろうが、じゃあオイラは何て呼んでたんだ、うん?」




『…………、…チィッ』


何故か余計に苛立ったらしい相方は急に背を向け部屋を出て行った。


(あ?何だよアイツ…)


「へへっ!お前はいつもアイツを"サソリの旦那"って呼んでたぜェ」

「全く…あの照れ屋め。とにかく貴様の連れはアイツだ。奴に何とかしてもらえ。まずは任務を先に遂行してこい」



そう言われ、いまいち状況を飲み込めないままのデイダラだがひとまずサソリの後を追った。









厳ついヒルコは先程歩いた道を再び体を引きずりながら進む。その隣には煩い子供。 だが。

「おいサソリの旦那ぁ!おせーよ、オイラの鳥に乗れば目的地までひとっ飛びだぜ、うん!」

奴は鳥に乗ってゆっくりと低空飛行を続けている。


『うるせぇ、嫌ならてめぇが先に行ってろ』

何だか胸糞悪い。


「はぁ?いつもそんななのか?二人一組の意味ねぇじゃねぇか、うん」


『チッ…いちいちうるせぇな。いつもはてめぇが俺に合わせて歩いてんだよ』


─何なんだ。何を苛ついている、俺は。



「そうなのか」


そう上から聞こえたと同時に、煙を上げて鳥が消え、デイダラはサソリの隣に降り立った。


規則正しく隣からデイダラの足音が聞こえる。


すると不思議とサソリの苛立ちは消えていった。






『おい、任務内容はわかってんのか…』

「んあ?死体処理場の焼却と情報の封印だろ、うん?」


『……』

どうやら内容はきちんと記憶しているらしい。角都達の顔や暁の詳細も把握しているようだったしな。

だとすると、

(忘れたのは 俺の事だけ、か…)



いや違う。奴はイタチを相方だと認識している。単なる記憶喪失では無く、やはり角都の言うように 何者かに頭を弄られ、記憶を書き変えられた可能性が高い。



ふわりと風が吹いた。

その時、爽やかな香りがほんの一瞬鼻を掠めた。「─、この匂い…」

デイダラは何かを思い出しそうな顔で目を細めた。


すると左手にはあのカスミ草原。

「やっぱり。オイラが昨日寝てた場所か。」



デイダラは一人で納得してそれからは何事も無かったかのようにまた前を向いて歩き出した。





─寝てた場所だと?






『…おい、てめぇは昨日アジトを出て行った後 何してた』


不可解な言葉にサソリは率直に問う。


「昨日?んー…何してたっけか、そう言われるとあんま憶えてねぇな。」


やはりすっきりとしない答え。


『昨晩どうしてこんな場所で寝てた。他に誰もいなかったのか』

「んー…、目が覚めた時には誰もいなかったぜ、うん。でも、そこまでの記憶があんま思い出せねぇ…何か頭ん中がモヤモヤするな」


問い詰めれば何か手掛かりを思い出すかもと期待してみたがやはり駄目だった。


だが、アジトを出てから目が覚めるまでの間に 何らかの戦闘もしくは敵の罠に嵌まった事は間違いないだろう。

この任務が片付いたら調べてみるか。

何時までもこんな調子じゃこっちが参る。

そう決意した途端、サソリの口からは力無いため息が漏れた。







今回の任務は要するに後処理であって生産性は全く無い。


はっきり言って面倒くさい以外の何物でもないが、組織にとっては証拠隠滅も重要な過程だ。


特に我々のように秘密裏に情報を模索している場合、それに関わった連中は個人・組織関係なく始末対象となる。

情報の漏洩阻止の為だ。










「すげぇ数だな…うん…」


目的地に到着し、結界を解除した途端に鼻がねじ切れる程の異臭が襲いかかる。


「確かにこんだけいりゃ、流石にゼツでも喰いきれねぇな…うん」


今、二人の目の前には 夥しい数の死体が山積みにされている。老若男女構わず腕や髪が所々から垂れている。

暗い鍾乳洞の空間一杯に死臭が充満していてデイダラは今にも吐きそうになるのを堪えていた。


当然ながら嗅覚の無いサソリは デイダラの表情で度合いを測る。
『さっさと終わらせるぞ…』


そう言って出来たばかりの火遁使いの人傀儡を巻物から出した。


その瞬間、全身に冷気が。

背筋が凍りつき呼吸がしにくい。明らかに何かがいる。

そしてそれは二人を捉え確実に死に至らしめんとしている。
デイダラが流れる冷や汗を拭った瞬間、目の前の死体が不気味に起き上がり、手にした斧で襲いかかってきたではないか。

「うわっ、何だこいつ…!!」

咄嗟に攻撃を避けたが、そいつは歪な動きをしながらまたもや襲い来る。


《俺の…身体ヲ…返せ…》


洞窟内に静かに響いた声。


《孔雀一族ノ…崇高な身体に…触れルな…》


『こいつ…、』


その死体は紛れも無い黒髪の男だった。

デイダラは知ってか知らずかその男の屍と向き合い戦闘態勢のまま。


『孔雀一族…そういうことか』



その単語でサソリは確信を得た。


同時にデイダラは腰のポーチに両腕を突っ込む。





『そいつの"中"にいるやつはこいつだ』

途端、洞窟内が炎と熱に覆われ デイダラの目の前の男は一瞬にして炭と化した。


「え、それって──」

『孔雀一族の末裔 シキ。うちはに続く火遁忍術のエキスパートと謂われている…ククッ、俺の最新作だ…』



勿論毒仕込みだ…と付け加え、サソリは不気味に笑いながらその新しい傀儡に視線を移した。


白髪赤眼の凛とした顔立ちの男。
デイダラは何となく見覚えのあるようなないような感覚でその傀儡を見た。


『前回の任務で仕留めたやつだ…てめぇもその場にいた。…ふん、まさかその魂が俺達を怨んで今回の始末対象の死体に取り憑くとはな…』


むくり、と また別の屍が身体を起こした。

「お前達ハ…絶対に…赦さナい………我々を…里の人々を…何の罪も無い人間ヲ殺した…明日笑って生キる筈だった命を…一瞬で消シた…」



サソリは静かに響く声を聞き取る。



「へっ!何だかよくわかんねぇが"幽霊"ってやつかよ、うん。これじゃきりがねぇな!」


デイダラは悪寒を感じながらもポーチに入れた掌に粘土を喰わせる。





「だが、乗り移る死体がなけりゃ意味ねぇぜ…」


『おい…此処は地底だ…こんなとこで爆発なんざ起こせばどうなるかわかんだろ』


冷静にサソリは言い放つ。


「ならどうすんだ、この数相手に体術でやろうってのか?アンタの毒だって死体にゃ効かねぇだろうが、うん」



そう言った瞬間──

《う゛っ─!!》


奥の闇からうめき声がした。

見るとヒルコの腕に仕込まれた毒針の一部が無くなっている。


『そこにいるのは解っている…姿を表せ』


しかし洞窟内には微かな呻きと荒い息遣いが響くのみ。


『チッ…』

サソリは華麗に糸を操り"シキ"を突進させた。両肘には毒羽。


《ぐぁああああっ!!!──っ、、兄様…!》



漸く後方の岩陰から どさり、と何かが倒れた。


サソリとデイダラはゆっくりとそれに近づく。





岩陰に踞(うずくま)るその影は鋭い赤眼で二人を射抜く。

綺麗な黒髪の少女だった。

そしてその指からはチャクラ糸。




『孔雀一族の落ちこぼれか…瞳は赤いが秘術は使えねぇみたいだな。チャクラ糸の操り方も未熟すぎてバレバレだぜ…』


「へぇ、兄貴の仇に死体操ってオイラ達を殺るつもりだったのか…確かに、幽霊には勝てねぇからな、うん」



少女の表情が険しさを増す。


「よくも、兄様を…!!挙げ句その身体まで好き勝手にっ─、これ以上…死者を愚弄するのは…赦さない!!」


息絶え絶えにやっとの思いで言葉を発す。底知れぬ怒りに満ちた赤眼はギラギラと光り、見ている者の背筋を凍らせる。



『グダグダうるせぇ…昨夜、デイダラの記憶弄くったのはてめぇだな。』

サソリは徐々に追い詰める。

少女は自分の左の前髪に手を添え唇を噛む。


「そうだ、あの日からずっと…お前達を探していた。探して同じように殺してやろうと思っていた。だが、お前の言う通り…私は一族の落ちこぼれだ…。いつも兄様が倒した敵の骸を操る事で…存在を許されていたそんな私が、兄様を一瞬で…倒したお前達に叶う筈が無い─。だから情報を抜き取る事で弱点を…探ろうとした。そんな矢先に──」
『こいつを見つけた』


サソリが言葉を繋いだ。


「…そうだ。あの草原で幻術に掛けた。だが組織全ての情報は抜き取れず、わかったのは相方であるお前の事と今回の任務内容のみ…記憶障害はその副作用のようなものだ。強く想う事だけが逆効果として現れる…今、そいつがどんな副作用に陥っているのかは私も知らない」


強い動機と目眩に苛まれながら汗を流し、少女はくつくつと喉を鳴らして笑った。

「見る限り、お前の事を忘れているようだな…どうだ、大切な者に存在を忘れ去られた気分は」

青ざめた顔で愉しげですらある。

『ふん…くだらねぇ。俺はとうに心を捨てた。今更そんなもんに興味はねぇ…だがこいつに掛けた幻術は解いてもらう。生意気で鬱陶しい餓鬼だが、今は俺の相方だからな』




既に身体のいたるところの機能が停止しているようだ。視界も殆ど無いのだろう、虚ろな目で口を開く。


「大切な者を…失った孤独と憎しみを…お前達にも知らしめて…やりたかった…」

少女はギリリと歯を喰いしばり目を閉じた。


『あぁ、よく知ってるぜ…』

微かな呟きが聞こえた気がした。



『作戦の筋はいい…。だが、実力が伴わなかったな。苦しいと思うがじきにこいつにも逢える…さっさと逝け』


カチャリ、とサソリはヒルコの尾を伸ばした刹那、少女が赤眼を見開いた。


「お前達も道連れだ」



最期の力で少女はクィと指を動かした。 闇の奥で何かが外れる音がした。




ドドドドド…


遠くから重低音が近づいて来る。


二人は急激に不吉な予感に襲われ洞窟の出口へと視界をやった瞬間、
「!サソリの旦那ーーーっ!!」


ドオォォン──!


天井が崩れ落ち、二人の姿は完全に煙に飲み込まれた。









爽やかな風が頬を撫でている。
デイダラは閉じていた瞼をゆっくりと開けた。

真っ先に瞳に映ったのは 白銀の月。

闇夜に浮かぶ真珠のような柔らかな光は、昨晩とはまた違った温かさを感じさせた。



「あ、れ……オイラ、」



何故自分は無事なのか。

あの時確かに洞窟内は完全崩壊した筈だった。

地中深くの脱出劇など不可能だ。





『目ぇ覚めたのか、デイダラ』



急に若い男の声がした。上体を起こし見回すと、足元に 焚火に薪をくべる短髪癖毛の青年が眠そうな目でこっちを見ている。揺れる炎の光を受け、髪が暖かな橙色に染まっていた。



『何だ、また頭でも打って記憶を落としたのか』


ふん、と小馬鹿にしたような顔をして鼻で笑う。


『あの後、鍾乳洞の底の水脈に全部流されていった。恐らくあいつは地底湖に俺達を沈めるつもりだったんだろう。ヒルコのままじゃ動きが鈍いからな…てめぇ抱えて泳ぐのは至難の技だったぜ』


そう言ってサソリは濡れた外套を着たまま、また薪をくべた。


「──、!」

『…?……自分の名前がわかるか?──てめぇの名前はイタチだ』「ざっけんなゴルァ!!あんなすかし野郎と一緒にすんじゃねぇよ、このオッサン!!」


燃えている薪が飛んできた。


『言うじゃねぇか…記憶戻ったら戻ったでやっぱり煩ぇな。だが、これはいらねぇんだろ…』


サソリはデイダラにスコープをちらつかせた。


「それ、は…!!」


完全に記憶が覚醒したデイダラは一連の言動を思い返した。



『これからてめぇはイタチと組むんだろ?なら必要ねぇよな。俺も物わかりの良い鬼鮫となら、上手くやって行けそうだ…』


存分に嫌みを込め口元を歪ませた。
デイダラの副作用を知った上での余裕か。


「ちっ…いちいち根に持ちやがってタチの悪いオヤジが。…でも──」


デイダラも負けじと強気に笑う。


イタチとサソリに対する強い想い。
潜在意識が浮き彫りとなった今回の出来事。



「旦那の気持ちがちょっとだけ聞けたからな、今回の喧嘩は赦してやるよ、うん──わつっ!!」


さっきよりも太い薪が飛んできた。



『この反抗期が…』







地底湖に沈んだ洞窟のせいで、地上は巨大なクレーターのような跡が穿たれた。

焼却は出来なかったが、一応任務完了だ。

今頃あの地底湖には、大量の骸と、あの兄妹の亡骸が静かに眠っていることだろう。

結局、デイダラを連れ出す事に精一杯であやつは置いてくる羽目になった。







(まぁいい…要るもんは取り返した)






まだ生乾きの外套のまま、二人は再び森の奥へと消えて行った。










END

2012.8.10
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