『日課』
遠くで規則的な電子音が聞こえる。それはだんだんと大きく明確になり、耳の中で脳を内側から刺激する。
勘弁してくれ───今日は休みだろ起きてたまるかまだ寝るんだよ俺は。
アラーム機能は解除した筈なのにとイラつきながら寝返りを打ち、再び眠りの世界に戻ろうとする。が、鼻を掠める甘い匂いに誘われ 俺はもっさりと目蓋を開いた。
起床の遅い休日は隣にアイツはいない。のそのそとベッドから這い出しリビングへ向かうと、また電子音が鳴った。ああ、コレだったのか。
扉を開けると キッチンタイマーに急かされたデイダラがせわしなく家事に追われていた。
「あ、おはよう旦那!」
太陽のような眩しい笑顔に迎えられ、俺は寝ぼけ眼をこすりながら幸福感に満たされる。
(チッ、朝っぱらから可愛いなコイツ)
席につくと甘い匂いの元凶が判明した。 ホットケーキだ。
正直、俺はコレが好きだ。だがそれを誰かに教えたことは一度もない。何で知ってんだ。いや、たまたまか。
まだ冴えない頭でぼんやりしていると、作業の終わったらしいデイダラが向かいの席に座った。サラダと珈琲がテーブルに並べられた。
「はい、どーぞ。旦那の好きなホットケーキだぞ、うん!」
再びニコニコと音が聞こえる程の満面の笑みを喰らわしてきやがる。……クソ、後で覚えてろよ。
俺は照れ隠しに視線をそらし、溶けたバターごと切り取った甘いスポンジを口に放り込んだ。
(あーあ、朝から甘ぇな…ホント)