「…よぉ、無事か。」

ようやく視界が晴れてきたと思ったら目の前に巨大な鳥が現れた。

それに乗る青年はどこか楽しげな雰囲気を纏いながら安否を問う。


「あぁ、何とか生きてるぜェ…。」


爆煙に紛れて奴等の姿は見えないが、先程の爆発で一時的に離れたようだ。


「ま、不死身のお前を助けても意味ねぇんだけどな、うん。」

「いやいや!流石にさっきはヤバかったって。お前も見ただろ、スゲー怖ぇ武器持ってた奴。」

そう言って飛段は外套の土埃を払いながら首をポキポキと鳴らした。

「んぁ?いたっけか、そんな奴…」

至極どうでも良さそうなデイダラは、相手が人だろうが物だろうが自分の芸術が披露できればいいと思っている。


「にしてもよぉ、リーダーの策ってのはこの事かよ!」

「あ?何がだよ。」

やっと理解した飛段に対してデイダラは片眉をあげる。


「だぁから!偽暁の頭を潰す策ってのがお前等の加勢ってことだよ!」


ん?そうだったのか?つーか、偽暁の頭って誰だよ…。
デイダラは一瞬険しい表情を見せたが、すぐに「あ!」と目を見開いた。

「もしかして、ながらって奴か…?」

子供が玩具を親にねだるような 不安と期待が混ざった顔で飛段を見遣る。



「…え。はあぁ?今更何言ってんだよ、お前。」

うん?違ったのか?
デイダラは飛段の反応が予想外で呆けている。


「まさか、何も知らねえで此処に来たのか?」


その通りだ。デイダラは何もサソリから聞かされていない。此処へ来たのだって相方に付いて来た結果こうなっているだけだ。



デイダラの表情に影が差す。眉間に皺を寄せ 一文字に口を結んだ。

「まじかよ、てっきりあの永良ってオッサンを殺る為の加勢かと思ったぜ。違うのか?」

「…いや、そうだ。サソリの旦那がオイラに言わなかっただけだ。」

そう言ってデイダラは角都のいる方向を睨んだ。

あっちにはあのサソリがいるのか。なら安心か…。飛段は視線を向けながら記憶を辿る。


普段から二人一組で行動するこの組織にいると、必然的に相方以外のメンバーと関わる事は殆ど無い。特に角都と飛段のコンビは専ら賞金稼ぎの任務でアジトに戻る事が少なく、各国に点在するそれさえあまり利用しない。

だが一度だけ奴を見たことがあった。


湿っぽいアジトの出口で、恐らくは相方であるデイダラを待っているのだろう、究極に苛立っている様子に息を飲み通り過ぎる。
その時、一瞬目が合ったが陰鬱な雰囲気とは別に 確かな脅威を感じた。―奴は強い

厳つい後ろ姿を振り返りながら、飛段の本能がそう決定した。




「お前等、仲悪ぃのか?」

飛段の何気ない言葉が今は胸に刺さる。
言い返す言葉が見つからない。
現に 重要な任務内容でさえ話してもらえていないのだ。


―クソッ!!オイラには言う必要ねぇってか…

腹の奥底で渦巻いていたどす黒い感情が再び溢れ出してきた。


「…なんだ、図星かよ。確かに気難しそうな相方だもんな。色々大変だな、おめぇもよ!」

「!!……知った風な口利いてんじゃねぇぞ、うん。」

鋭い視線が飛段を捉える。そこには怒りの色が窺えた。

「別にオイラはあいつに媚びてる訳じゃねぇ…コンビだって嫌だと思った事もねぇよ。」


威圧的な空気を醸し出す青年に対して嫌悪感を抱いた飛段は

「そうかよ。」

と呆れ顔で言い捨てただけだった。「暁も大したことないんだねぇ。こーんな頼り無いメンバーの集まりがS級だって?ウッフフフ…笑っちまうよ。」


突然上から声が降ってきたと思ったら、晴れた視界の中に 爆破で崩れた丘の崖上に立つ二つの影が見えた。


「爆発には驚いたけど、加勢に来たのが相方からも信用されない可哀想なボクだなんて、ウッフフフ…ねぇ椿?」



「なんだと!?そいつぁオイラのこと言ってんのか、うん!?」


噛みついたデイダラを嘲笑うかのように 二人は崖下へ降りた。


漸くはっきりと顔を確認し、デイダラは戦闘態勢をとる。



さっき己を挑発していた奴は、腰までもある緩やかに揺れる髪を頭上で括っており、はだけた着物の胸元からは零れんばかりの乳房が覗いている。


深い切れ目の入った裾から見える太ももには花の蕾の刺青が施されていて、妖艶な口元を歪めている。



「あのケバい女は鞭みたいな武器持ってんぞ。」


隣で飛段が耳打ちした。


「鞭…?それだけか、うん?」

放たれる覇気とは明らかにアンバランスな情報にデイダラは聞き返す。


「いや、俺の知る限りっつーこと。寧ろあっちの女の方がやべえ…。」


そう言った飛段の視線の先には先程から物言わぬ細身の女が立っている。


黒髪白肌ですらりとしたその女は、見た目飛段と変わらない歳に思えるがその顔は恐ろしく無表情だった。


デイダラはゾクリとした。

普段から相方の手により操られる傀儡を見ているせいだろうか。

目の前の女は正しく、感情を削り取られた"人形"そのものだった。


そして彼女の左の顔面。上から下まで真っ直ぐに縫い合わされた傷痕がおどろおどろしく、左目の瞳孔は開いたままだ。


物静かな雰囲気とは駆け離れた面の女は、尚も無表情にこちらを見ている。



「作戦会議は終わったかい?悪いけど、アタシらは任務を遂行させてもらうよ。ウッフフフ…あんた達の情報は入ってる…椿、銀髪はお前に任せたよ。こっちの餓鬼はアタシの獲物だ。」


デイダラはピクリと反応した。

「誰が餓鬼だと?!」

今のデイダラには禁句と知ってか知らぬか蕾という女はそう言い放つと、椿はすぐに消えた。

刹那、隣から凄まじい金属音が鳴り響いた。

―キィン!キン!キン!
―ギィン!


「―っ!!やっぱこいつは俺なのかよぉっ!!」


即刻泣き言を叫び出した飛段だが、今はそれどころではない。此方も侮れない相手には間違いないだろうし、何より餓鬼扱いされた事実を制裁せねばならない。


デイダラは改めて目の前の蕾と向き合った。





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