殺意




 現在の暁は実に様々な面々の構成員で成り立っている。年齢、能力、犯歴、そして出身。
それ故、追っ手の忍び里も多岐に渡る。
唯一共通の “抜け忍は容赦しない”という点も、やはり里の習わしにより追い忍の残虐性に随分と格差があるのが事実だ。





(……チィ、やはりコイツらはしつこいな)


後方の茂みから鋭い追跡チャクラを感知し、サソリは不機嫌に舌打ちをする。
機動性の悪いヒルコでの逃走には限界があるが、そろそろだと目星をつけ 目的地までヤツらを引き付ける。

少し拓けた茂みの中、サソリはくるりと背後へ向き直り追跡者を出迎えた。


「…ようやく観念したか」


現れたのは面を付けた若い男。威風は良いが、物静かな外見とは裏腹に凄まじい執念を滲ませている。


「オイオイオイ……勘弁してくれよぉー赤砂のサソリさんよぉ!」

次いで現れた男は、同じく暗部であろう大柄な忍。斧のような忍具を片手に所持し、ヒルコに向かって敵意を剥き出しにしている。

「里の命により、お前をここで抹殺する。大人しく降伏するというならば、命までは取らん」

『ククク…、大した譲歩だな。…だが、その後の待遇がどんなモンかを俺が知らねぇ訳ねェだろ』

サソリは使う傀儡の選査を済ませると直ちに巻物から召喚し、流れるような仕草でチャクラ糸を装着する。

まるで、一流の旋律を奏でるかのように。
まるで、白画を彩り舞うかのように。


「ハハハッ!なら、裏切り者のお手並み拝見と行きますかぁーー!!」


よく見知った刻印が胸糞悪い。本当に反吐が出る。

上層の奴等は、まるで保身しかない。臆病なほどに他里を敵視し、危険があれば身内ですら手にかける。過去の黒歴史然り。
それ故、反逆者は目も当てられぬ拷問の末、情報を奪われ果てるのが定石だ。
それだけではない。

コイツらはまだ知らないのだ  鳥籠の中の生地獄を
この里の 永永と腐敗し尽くした歴史を


『哀れな奴等だ……里の為に、命を捨てるか』


 あぁ、 本当に反吐が出る



サソリは過去を握り潰すように、その場を赤に染め上げた。











 二手に分かれたまでは良かったものの、派手な戦法というのはこんな時裏目に出る。
滝忍、霧忍、木の葉に四方を塞がれ、デイダラは粘土残量を両の手で確認する。
ここで全員を葬るのは可能だが、追い詰められた末の自爆はクールじゃない。
特にあの堅物に知らしめる前にくたばるなんて論外、芸術家としては最高に不名誉だ。

デイダラは小さな鳥を掌から吐き出し印を結ぶ。煙に紛れてその背に乗り込むと、あっという間に上空へと移動した。
どんなに手練れが追ってこようが、空を翔る事のできる忍はそうそういない。デイダラは改めてこの芸術を生み出した己の才能を自画自賛した。

「芸術は、爆発だ!!」

蜘蛛型の小型爆弾をわんさと散布し 辺り一面を焼き払う。しかしこんな見え透いた術にはまるほど暗部も愚かではない。各々独自の回避を成功させると、デイダラに向かい反撃を開始する。
そこへサソリが到着するも、一進一退の攻防はまだ続いていた。


『派手な割にチンタラしやがって……クズが』

さて、ここで手を貸す運びが妥当ではあるが、奴の敗北を眺めるのもまた一興だ。あれだけの口を叩いた挙げ句の最期は意外と見物かもしれない。
まあ何にせよ、己の手を汚さず始末できるのなら色々と好都合だ。

サソリはその場で留まり静かに眼を光らせる。無様に鳥から引きずり下ろされた相方を視認しつつも、じりじりと奴の背後に忍び寄る影を捉えた。

(ほう、岩忍か……)

流石は大国だけの事はある。
まだ日が浅いというのに既に自分たちの勧誘を突き止めていたとは。
しかしこれは面白い。追い忍駆除に明け暮れる最中、元同族に討たれるとはますます滑稽だ。

岩忍がデイダラの死角よりクナイを構える。指間の三本の刄が鋭く光ると同時に それらが一斉に放たれた。……じゃあな餓鬼  そう呟いた刹那、

(──!?)

肉を切り裂く筈だったその切っ先が、歪に捻れ掻き消えた。

『──チッ!』

次いで自分の背後からも新たな追っ手を感知、迎撃するも大声を張り上げて迫り来るせいでデイダラが振り返る。

岩忍に気付いた奴の眼が変わる。
酷く怒りをみなぎらせ、見たこともない形相で取り出した粘土はいつもの十倍はあった。何か言葉を交わしているのか、相手の腹部に押し付けた直後 奴は急上昇した。
目の前が眩い光に包まれる。

サソリは間一髪、追ってきた砂の忍を盾にこの大爆発から逃れた。







 「……あ、オイラの方は終わったぞ、うん!」

一面焼け野原の真ん中、近付くサソリに気付いたデイダラは得意気に報告する。

「あんたにも見せてやりたかったぜ……!たった今オイラの新作が完成したんだ!」

『…………』

「名付けてC3!まだまだ造形に改良が必用だが……ようやく最大のチャクラを練り込む事に成功したぞ、うん!」

その後もデイダラはぶつぶつと“ムソクの叫び”だの“翼を拡げる”だのと粘土のデザインについて巡考し始める。

『てめぇ……』

沸点を通り越し最早氷点下にまで辿り着いたサソリの怒りは、そこでゆっくりと近付く足音によって中断された。


「任務は終わったか」


同僚とも言うべく揃いの赤雲を纏った男が、のんびりとした足取りで現れた。
その後ろには青い顔の大男も。

「──っ、てめぇイタチ!」

すかさず戦闘態勢に入るデイダラだが、それも束の間 崩れる足によって意向は阻まれた。

「チャクラ切れですねェ、今はあまり無理をしない方が身のためですよ」

そう忠告し、鬼鮫はデイダラの腕を掴み立ち上がらせる。その後はふて腐れる奴と何やら会話をしている。


『何しに来た……』

サソリの不機嫌な問いにイタチは涼しげな顔で答える。

「俺達はこれから別の任務だが、リーダーからの指令を伝えに来た。終わったらすぐに帰還しろ、との事だ」

それだけ言うと、イタチは前を向きスタスタと歩き始める。
いまだやんややんやと話し込んでいる二人の元へ近付くその背中に、サソリは低い声で言い放つ。


『てめぇ、よくも邪魔してくれたな……』


重く響く怒りの声は、風の抜ける荒野にもはっきりと音を残した。イタチの黒い瞳がゆっくりと振り向く。


「何の事だ」


相変わらず、何も読めない色だ。
ただそれだけを呟き、本当に二人はこの場を去っていった。


『チィ……』

リーダーの名を出すとは、釘を刺しに来たのか それとも……


いまだ居座る邪念を噛み潰し、サソリはデイダラを叱咤する。

『さっさと歩け、アジトへ戻る』

疲労感たっぷりの子供は、うんざりを顔に貼り付けながらも ヨロヨロと歩き出した。


それにしてもさっきのコイツの術は大したものだ。あの窮地で己の限界を越えたか  
油断していたとはいえ、正直自分も危うかったとサソリは後ろの子供を見遣る。髪留めは外れ、長い金髪がくすんで乱れ放題だ。全く芸術性を感じやしない。だが、

(確かにコイツには想像以上の延びしろがありそうだな)

自信過剰の単細胞には違いないが、もしかするとこの先面白いものを見る事ができるかもしれない。


『……おい、次俺を巻き込みやがったら今度こそ殺す』

「……うん?」


まぁいい、少しばかり延期してやろう。

  殺すのは俺の期待を裏切ってからでも遅くはねぇ。


そう心に決めた途端、サソリの苛立ちは辺りの爆煙とともに いつのまにか消えていた。







20160505
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